サイコパスをやめたくて
ゆーり。
サイコパスをやめたくて①
これは灰里(カイリ)が周りから“サイコパス”だと言われ避けられていた時の話である。 中学二年生になって半年が経った頃、朝登校した灰里は校庭でクワガタで遊んでいた。
クワガタと遊んでいたではなく、クワガタで、だ。
「おはよー。 って、灰里くん何をしてんの!?」
友人である黒羽(クロウ)の声に振り向きもせず答えた。
「何って、幼虫をクワガタに食べさせているんだよ」
「何の幼虫?」
幼虫の種類が問題ではないだろう、とも思うが黒羽も灰里も気にしていない。
「クワガタの」
「クワガタの、って・・・! そんなことをしちゃ駄目だよ!」
「どうして?」
灰里はキョトンとした顔を見せる。 本当に何が駄目なのか分かっていなかった。 そんな二人のやり取りなんて知りもしない少年が、通り様に声をかけていく。
「お、灰里と黒羽じゃん! 今日トランプを持ってきたんだ。 先生が来る前に、一緒に遊ぼうぜ!」
「いいね、やる」
立ち上がると、灰里はトドメにクワガタの牙に幼虫をぶっ刺した。
「ちょ、灰里くん! 何をして・・・」
「だって、全然食べないんだもん。 こうしたら食べないと、幼虫が取れなくて邪魔だろ?」
「そもそもクワガタは自分の子供なんて食べないから・・・」
「だからだよ。 そろそろ新しいものを食べる時代が来てもいいでしょ。 さぁ、行こう」
そう言って歩き出すが、黒羽だけはそこから動かなかった。 置いていかれたクワガタをぼんやりと見つめている。
「何をしているのさ」
「あ、ごめん!」
黒羽が来ると二人で歩き出した。 もちろんクワガタの牙に幼虫は刺さったままである。 昇降口へ向かっていると横からボールが転がってきた。
「おーい! そのボール、取ってくれー!」
見ると遠くで手を振っている男子がいたのだが、灰里は気にせずにそれを思いきり蹴飛ばした。
「丁度いいところでボールを拾ったから、サッカーでもして遊ぼう」
「え!? でもそのボール、サッカーのボールじゃないよ・・・」
またしてもボールの種類はどうでもいい気がするが、まぁいいだろう。
「どうしたの? 早くグラウンドへ行こうよ」
離れようとすると、ボールを追いかけていた男子がやって来る。
「おい待て! そのボールを持ってどこへ行く気だよ! 俺のだぞ!?」
「いや、今俺が拾ったから俺のものだけど」
「はぁ!? 何ふざけたことを言ってんだよ。 つーか、お前俺より後輩だろ? 敬語を使え!」
「いや、俺たち三年だし」
灰里も黒羽もまだ二年であるが、灰里は躊躇いもせず嘘をつく。
「お前みたいな顔、俺たちの学年で見たことがねぇから! お前もコイツと同い年なんだろ?」
そう言って先輩男子は黒羽に視線を向けた。 だが灰里はそんなことを気にもしないよう、黒羽に目配せをする。
「俺たち、三年だよな?」
「え!? あ、その、えっと・・・」
「・・・はぁ、もういいよ。 別に君を責めているわけじゃない。 お前、大変だな。 流石に同情するから、許してやるよ」
黒羽を見てそう言うと、灰里からボールを奪い取りそのままここから離れていった。 おそらく黒羽が“変なの”に絡まれていると思ったのだろう。
「・・・ねぇ、どうして嘘を言ったの?」
「逆にどうして敬語を使う必要があるの? え、何? 俺悪いこと、何かした?」
「・・・いや・・・」
黒羽としては納得できなかったが、これ以上は何を言っても無駄だと思ったのかそのまま教室へ歩いていく。 すると先程出会った少年が手を振ってきた。
「お、二人共待ってたぞー! 早くトランプしようぜ!」
「トランプ? あれ、遊ぶ約束なんてしたっけ・・・。 まぁいいや、楽しそうだし」
男子の輪に混ざりジジ抜きが始まった。 次は灰里が引く番だが、どれを取るのか悩み過ぎた。
「んー・・・。 ちょっと見せて!」
「ッ、おい! 何をすんだよ!」
おもむろに相手のトランプを全部見ると、嬉しそうな顔を浮かべカードを引いた。 もちろんルール違反であるため、場にいた全員がしらけ顔だ。
「え、だってこうでもしないと見えないじゃん。 数字を揃えるゲームでしょ?」
「そうだけど、見るのはルール違反だから!」
「・・・それ、面白い? ただの運ゲーじゃん」
「見る方が面白くねぇよ!」
「ふーん・・・。 俺には分からないや。 つまらない、止めた。 あ、ここに丁度紙があるし、みんなで一緒に切り絵でもしようよ! 誰かハサミ持ってない?
俺小さい頃から、細かい作業が好きでよく褒められていたんだ」
ハサミがないかを確認しながら、トランプを折ろうとした。 紙というのはトランプのことだ。
「ちょッ、俺のトランプを折ろうとすんな!」
「え、駄目なの?」
「駄目だから! 普通はこんなことしないから! つか灰里、お前最近おかしいぞ?」
その言葉に、周りにいたクラスメイトも声を重ねていく。
「そうそう。 変って言うか、異常・・・?」
「まるでサイコパスみたいなんだよなぁ・・・」
だが、当の本人の灰里は何を言われているのか分からない。
「え、みんな何を言ってんの? 俺は普通だし、それを言うならみんなの方が変なんじゃ」
「か、灰里くん行こう! 僕喉が渇いた、一緒に水道へ!」
黒羽は強引に灰里の腕を引っ張りこの場から離れた。
「おーい、黒羽ー! ソイツには、あまり関わらない方がいいぞー」
それでも離れ際にそのようなことを言われる。
「・・・」
「・・・黒羽?」
灰里は自分のどこがおかしいのかよく分からなかった。 周りに頻繁に言われることで“自分はサイコパスなのだ”と少しずつ自覚していく。
だがそれはサイコパスであると知識で認識するだけで、自分がおかしいと思うわけではなかった。 黒羽はそんな自分を知った上でもずっと傍にいてくれた。
だが――――結果的に灰里は、半年後転校することになってしまうのだ。
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