一話 雨と幼馴染 7
「え~、
その上目遣いやめてくれないかな、あいりさん。
多分あいりさんはお兄さんにターゲットを決めたようだ。というかそもそも純さんの知り合いみたいだし、純さんには興味なかったんだろう。
そういえば、まいさんはどうなんだろう。
細身で男ウケの良さそうな彼女が、お兄さんに迫るのも勘弁願いたい。
「純くん、学生の頃は何かスポーツしてたの?」
どうやらまいさんは純さんに狙いを定めたみたいだ。
あいりさんはエロいお姉さんって感じで、私とは全然タイプが違う。でも、まいさんは完全に私の上位互換みたいな人だから、まいさんに迫られるのは困る。
私よりスリムで、私より綺麗で、私より……ってやめだやめだ。お兄さんを絶対手に入れるって決めたんだもん。まいさんより私の方が可愛い! そう思っておく。
純さんとまいさんが話しているところを、
純さんとまいさんの距離は近い。付き合っているんじゃないかってくらいに、距離を詰めて見つめ合い、楽しそうに話している。
そして
「
本当は好きなんじゃないですか? そういう解釈もできる声のトーンで言うと、
「純、口に食べ物入ってるのに喋ってる。いつもやめろって言ってるのに……はぁ」
やっぱり私の早とちりかもしれない。
その後も私たちはお兄さんたちの観察を続けた。
お兄さんは最初からブレずに固い男のままで、あいりさんからのおっぱいアタックを「近い、離れてくれ」と回避している。淫乱なおっぱいめ、ざまあみろ!
純さんも最初は楽しそうに会話していたのに、段々とつまらなそうになっていった。純さんはよくわからない。
「
「うん、行ってらっしゃい」
お兄さんたちに気付かれないように、コソコソとトイレに急いだ。
トイレを済まして、鏡の前で自分と向き合う。
お兄さんに合コンに行かないでほしいと言えなかった自分の不甲斐なさに嫌気がさして、ムシャクシャしてしまう。
「なに楽しそうにしてんの……お兄さんのバカ……」
私には見せない笑顔をあいりさんには見せていた。巨乳だから? 私じゃだめかな? 溜息をついてトイレから出ようとした時、誰か、聞き覚えのある、大好きな声が。
「悪いけど、俺帰るよ」
「えっ!? なんで!? 楽しくなかった?」
間違いない。お兄さんと純さんがドアの向こうにいる。
女子トイレの正面に男子トイレがあって、トイレの前で話しているんだろう。この通路は店内からは見えない位置にある。
わざわざあいりさんたちから隠れて話す内容、私はトイレからは出れず、二人の会話に聞き耳をたてる。
「俺がこういうの苦手って知ってんだろ」
「それは、まぁ……」
そうだそうだ、お兄さんに合コンなんて似合わないんだ。
「それにさ、今冷蔵庫に何も入ってねぇんだよ」
「「は?」」
思わず私まで言ってしまって、純さんと声が重なる。トイレのドアはそこまで厚くないから、声が少し漏れてしまったかもしれない。でもどうやら気付かれていないみたいだから、よしとしよう。
それにしても、どうしてそんな理由で帰るのか。合コンから途中で抜ける理由が冷蔵庫になにも入っていないから、なんて聞いたことがない。私はそもそも合コンに参加したことすらないけど。
「ほら、
「ほんと
純さんが苦笑しながらお兄さんの肩を叩いた。
私はお兄さんの優しさに感動して鳥肌がたち、尾行なんてしてきた自分の愚かさを呪った。
そうだよ、お兄さんなんだもん。お兄さんはいつも私を大切に思ってくれている。別に恋人でもない、ただの隣人だけど、お兄さんにとって私は、きっと巨乳のあいりさんよりも、細身で綺麗なまいさんよりも、特別なんだ。
「うるせぇな、ほっとけよ。あいつはまだ高校生なんだから、誰かが気にかけてやらねぇとだめだろ」
「はいはい、惚気もほどほどにしとけよな~」
「惚気じゃねぇよ!」
「仕方ないから
その場でお兄さんは自分が飲み食いした分のお金を純さんに渡して、そそくさと店を出ていった。
まずい、私は今家にいることになっている。お兄さんより早く帰らないと。
急いで自分のテーブルに帰って、
「私払っとくから追っかけなさい!」
「ありがとうございますっ!」
お兄さんは晩ご飯に何か買っていくって言っていた。お兄さんは外食はあまりしないから、この時間ならまだいつものスーパーが開いているし、多分そこだろう。
走って、お兄さんが通らないであろう道から先回りした。
スーパーに着いた時、スーパーから少し離れたところにお兄さんを見つけて、私は急いで走ってきた痕跡を消す。
髪を手櫛で綺麗にして、息を整えた。汗はそこまでかいていなくて、少しハンカチで拭くだけで済んだ。
尾行していたことがバレないためでもあるけど、少しでも可愛く見られたくて。
「あれ、なんでいるんだ」
「偶然だね。お兄さんが家にいなかったから、お腹すいちゃって!」
本当は尾行してたなんて言えない。
「ったくお前ってやつは、俺の予想通りだな」
「にっしし~」
「一緒に行くか?」
もう暗くなって、時間的にも夕方とは言えないこの時間。
街灯の下でお兄さんが私を見て、スーパーを親指でさしながら言う。
なんだかようやくお兄さんが遠い場所から帰ってきたみたいな感覚がした。だから、とびっきりの笑顔でいつも通り、私はお兄さんを迎えて。
「うんっ! 行こっ!」
やっぱり私は、こうしてお兄さんと買い物してたりする、この何気ない時間が大好きだ。
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試し読みは以上です。
続きは2020年10月1日(木)発売
『会社員とJK、お隣さん歴1年目。』
でお楽しみください!
※本ページ内の文章は制作中のものです。実際の商品と一部異なる場合があります。
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