一話 雨と幼馴染 5

 しばらくして、やっと落ち着いた。二人の誤解も解いて、なのも今は二人と楽しそうに話している。

 内容は俺の昔の話と、あまり良い気分ではない。そんなことをなのに話せば、揶揄からかいのネタにされるに決まっている。

「でさぁ、なんで二人はこんなに仲良くなったんだ? 隣人なんてそんなに関わることないだろ?」

「俺が聞きてぇよ」

 本当に意味がわからなかった。ある日突然越してきたなのが、引っ越し初日に挨拶に来た。そこまでは良く出来た高校生と思って好印象だったんだが……。

「お兄さんが私を無理矢理連れ込んで……」

れんろう……そんなことを……」

「んなことしてねぇよ!」

 挨拶の後にずかずか上がり込んできて、何故か俺の家で晩飯食って帰ったところからおかしいと思い始めた。

 もっとおかしいのが翌日も来たということだ。流石に一週間も続いた時にはもうキレながら飯作ってたな……。

「仲良さそうでよかったよかった! れんろうはまじで女っ気ゼロだからな~。なのちゃんみたいな子がいると安心だな!」

「そうだね。なのちゃん、れんろうは料理できるし自立してるし不器用だけど優しいから、オススメだよ~」

 あおいが姉目線で俺を勧めることになんだか恥ずかしくなる。相手は女子高生だぞ、勧めてどうするんだよ。

「じゃあこのまま結婚しちゃいまーす!」

「しねぇよアホか」

 なんでこいつもこんなに乗り気なんだよ。俺のこと嫌いだから揶揄からかってきてるくせに、そういうこと言うんじゃねぇよ。

「なに、お兄さん照れてんのぉ? 結婚する?」

「だからしねぇよ!」

 なのとの関係も、こうやって揶揄からかわれているところも、二人には見られたくなかった。純はなのみたいに揶揄からかってくるだろうし、あおいは多分俺たちの関係を恋愛ドラマを見るように傍観してくるだろうから。いや、世話焼きなあおいのことだから俺たちをくっつけようとしてくる可能性すらある。

「じゃああの話は他にあたるか……でも他つってもな……」

 純がポロリと溢すように言った。その意味がわからずにいると、同じく気になったあおいが聞く。

「なにが?」

「いや、なんでもない!」

 純が何かを言おうとしていたのは間違いない。でも言わずに隠す理由はなんだろう。

 あおいの質問をはぐらかしているし、言いたくないんだろう。だったら、別に無理に聞くことはない。でも気になるし後でこっそり聞いておこう。

「あ、そう」

 あおいも純が何かを言おうとして飲み込んだことを察したのか、少し思うところがあるような言い方だった。

「そういえば昼飯まだなんだよな~、れんろう作ってくれよ~」

「ここはお前の実家か」

「そうならお兄さんは純さんのお母さんだね」

「せめて父親であってくれ」

れんろう、手伝うよ」

「さんきゅーあおい

 話を切り替えた純の提案で四人前の昼食を作ることになった。

 あおいが手伝ってくれるみたいだし、それほど大変ではないだろう。ただ、待たせている間に純となのが話している内容が気になって集中できない。

 別に二人仲良く話していることに嫉妬したわけではない。ただ、俺の昔話なんてされてないかが不安なだけだ。って、誰に言い訳してんだ俺。


「ぷはーっ! お腹いっぱいだな! やっぱ最高だな、れんろうの作るメシは!」

「だね。れんろうはきっと良いシェフになるよ」

「シェフになる気はねぇよ」

「そうだよね、お兄さんは私の旦那さんになるんだもんね?」

「アホ言ってねぇで食器洗うから持ってこい」

 食べ終わった食器を四人分洗い、冷蔵庫にあったプリンをデザートに並べる。三つしかなかったから俺の分はないわけだが。

「お兄さん、また半分こする?」

「今日はいいよ。気分じゃねぇ」

 つい先週なのが食べたがっていたからわざわざ買ってきておいたプリン。美味しいと喜んでいたから、また三つも買ってきていた。俺も少しもらったが、たしかに美味かった。

 でもその過去の話をあおいも純も知らないわけで。

「「また……? 半分こ……?」」

 だから、しまった。そう思った。

「俺が全部食うと胸焼けするから、残った分食ってもらったんだ。別に変な意味じゃねぇよ」

 食べる時のスプーンだって別だ。俺は家の鉄スプーンだが、なのはプリン用にもらったプラスティックのスプーン。どうしてかあれで食べるとプリンって美味しくなる。

「ふ~ん、ただの隣人とプリンを半分こね~?」

「……なんだよ」

「んーや? なんでもねぇよ?」

 このニヤニヤ顔、うぜぇ。

 純はなんだかなのと同じ匂いがする。俺を揶揄からかって来たり、勝手に部屋に上がり込んできたり。困ったやつらだ。

 三人ともプリンを食べ終わり、あおいなのには聞こえないように、純に声をかける。目的は、さっきはぐらかした話の続きだ。

 このまま何を話そうとしたのかわからないままだと、気になって夜も眠れない。

「純、ちょっとベランダで話そうぜ」

「ん? まあいいけど」

「なに、二人どこいくの?」

 立ち上がった俺たちにあおいが不思議そうに聞く。

 二人きりじゃないと言いづらいことかもしれないし、ここはどうにか誤魔化すのがいい。でも、どうやって誤魔化せば。そう考えていた俺の横から、純が言う。

「男子トークだよ! 女子トーク的なあれだよあれ」

 もうちょっとマシなのないのか。

「ふーん。じゃあ私たちは女子トークしとこうか」

「はいっ!」

 あおいなのはいつからあんなに仲良くなったんだろう。なんか姉と妹って感じだ。こんな妹と弟いて、あおいは大変だな。

 俺と純はベランダで、あおいなのは居間で、それぞれが男子トークと女子トークのためにバラける。

 女子トークといえば恋バナだと決まっているんだろうけど、男子トークって普通なに話すんだろう。まあ今回は聞きたいことが決まっているんだけど。

「さっき言おうとしてやめたのはなんだ? 気になってずっとモヤモヤしてんだよ」

「あー、それか~。んー、でもな~」

「なんだよ、言えないことなのか? それならいいけど」

「んや! やっぱ言おう!」

 純は両手を額の前で合わせて、頭を少し下げながら。

「今度行く合コン、本当についてくるだけでいいから、数合わせで来てくんね?」

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