一話 雨と幼馴染 4
幼馴染ってのは、切っても切れない何かで繋がっているのだろうか。俺には小さい頃から仲のいい、
今はケータイショップで働いているらしい。仕事の話はあまりしてこないので詳しくは知らないが、
もう一人の幼馴染の純。こいつは一言で言うならバカだ。
純は持ち前のコミュ力を活かして、営業の仕事をしている。休みの日を利用して月に三回くらいの頻度で俺の住むアパートを訪れる。
そして今日も突然連絡が入って、今から
本当に俺の周りには、こういう奴が多すぎる。ちらりと、壁越しに
「おーっす! ただいま
「ここはお前の家じゃねぇ」
純は当たり前のように、インターホンを鳴らさずにずかずか上がり込んできた。まるで
「お邪魔します」
そんな純とは対照的に、丁寧な挨拶と共に玄関で脱ぎ散らかした純の靴まで整える
「純も手洗いなさい」
「家出る時洗ったから大丈夫だって!」
いや洗えよ、と言いたかったがそんなことを言う必要はない。純のことは
「いででででっ!」
手を洗い終えて戻ってきた二人のために座椅子を引いた。普通一人暮らしの男の家に、四人用のローテーブルがあることに疑問を感じるだろうが、このローテーブルは、純が勝手に買ってきたものだ。
今となっては
「とりあえず座れよ。飲み物だすから」
「コーラでいいぜー」
「そんなもんない」
俺の家の冷蔵庫にはコーラなんてない。俺は炭酸を飲まないんだ。そう思って冷蔵庫からお茶を取り出そうと開く。
「なんであるんだよ……」
全く買った覚えのないコーラが、冷蔵庫に入っていた。とりあえず意味がわからないが、純に入れてやることにしよう。
「さんきゅー! で、
なんで複数いること前提なんだよ。
「なんで複数いること前提なの」
純はチャラい。名前に似合わぬチャラさだ。でも俺と
どうしてチャラいふりをしているのかはわからないが、聞いても答えてくれなそうだし、聞くのも面倒だから聞いていない。
「で、お前はどうなんだよ。こないだ言ってた会社の子とは上手くいってんのか」
「あーあの子ね、辞めたんだよな~。俺がふっちまってさ~」
「なんでふったんだよ。好きかも、とか言ってたじゃねぇか」
つい先月の話だ。純がニヤニヤしながら後輩が可愛いと話すのを散々聞かされたばかりだというのに。
まさかあの時間が無駄だったのか。あの惚気話の被害者である俺の聞き損だというのか。
「んー、なんか違うわ。やっぱ俺にはもっと清楚でSNSの使い方もわからない子がいいのかもな~」
ほんっとテキトーな奴だな。先月までは尻軽そうに見えて好きな人にしか股開かない女がいい、とか言ってたのに。
ところで股開くってどういう意味だ。
「それと
「そうだよ
「え、できてないけど。なんだよ急に」
「じゃあお前の後ろに立ってる女の子は誰だ?」
「はっ?」
嫌な予感がした。それはまるでホラー的な怖気を感じるような寒気。
二人にもしも、このタイミングでアイツを見られたら。
「にっしし~、どうも彼女でーす」
「お前また勝手に入ってきたのか」
「勝手に入ってくるくらい親しい……つまり彼女だな! なんだよ水臭い! 報告しろよ~」
「ちげぇよ! こいつはただの隣人だ!」
そう。ただの隣人だ。
ただの隣人だから、別に部屋に上がってくるのは普通で――。
「馬鹿言うなよ。ただの隣人が部屋上がり込むかよ。それに可愛い子じゃねぇか!」
そうだった。いつから隣人が部屋に上がり込むのが普通という認識がついていたのだろう。
そんな当たり前が存在してたまるか。全部
なんでこいつ当たり前のように俺んちにいるんだよ。
「お兄さん聞いた? 私可愛いんだって! お兄さんに可愛い彼女が出来ましたよ~!」
「あぁもうめんどくせぇ! とりあえず座れ! お茶入れる!」
そして冷蔵庫を開けて。
「あっ! 私のコーラ飲んでるじゃん! 勝手に飲まないでよー!」
「お前のかよぉ!」
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