4‐4
公園ではスーツ姿の刑事達と青いユニフォームを着た鑑識の係員が作業をしていた。
何事かと集まって来た野次馬達を制服警官が追い払っている。
K県警捜査一課の刑事である
「それで、お二人のうちどちらが遺体を発見したんですか?」
「私です」
前野の言葉に学生のひとりが答えた。
制服と思しき濃紺のセーラー服にベージュのカーディガンを羽織った少女だ。
通学鞄の黒いリュックを背負い手には赤い傘を持っている。
目の大きい、華やかな雰囲気をまとった少女だが、マスクを着用していないことに気付き前野は僅かに眉をひそめた。
少女の名前は
星という苗字にピンと来た前野がそれとなく探りを入れてみると、先日、
この偶然に二人の刑事は息を飲んだ。
「ふむん……」
小さく呟きながら前野は手帳にペンを走らせる。
あくまで冷静に。自分の緊張が少女に伝わらないように。
「申し訳ありませんが、お二人がどのような関係か伺ってもよろしいですか?」
「同じ高校の後輩と先輩です」
前野の質問に星美朱が答える。
「どちらの高校に通っているか教えていただけますかね?」
「
「それは、この公園の近くにある?」
「はい。そうです」
前野は「ふむむん……」と呻きながらメモを取り続ける。
平静さを一切崩さず。相手に警戒心を抱かせないように。
「保護者の方と連絡は取れましたか?」
もう一人の発見者、
「はい。もうじき迎えに来てくれるそうです」
スマートホンで通話していた空嶋が答える。
眼鏡をかけた中肉中背の少年だ。白い長袖シャツと黒いズボン、青のスニーカーを履いている。
星と違い、白い化繊布のマスクを着用していた。
こざっぱりとした身なりの若者だが、どことなく陰を感じさせる。
空嶋には何か家庭の事情があるようだ。親ではなく親戚に連絡をすると言っていた。
「美朱!」
「おねーちゃん!」
星美朱の姉――星葵が来た。
葵は前野と大迫の姿を見つけると警戒するような表情になった。
最初に顔を合わせたときから、彼女は二人の刑事に対してあまり良い感情を持っていないようだった。
「こんばんは。お久し振りですね」
「その節は……」
少女の姉は険しい表情で答える。やれやれ、嫌われたものだ。前野は心の中で嘆息する。
「すみません。美朱はもう連れて帰りますので。問題はありませんよね?」
有無も言わさぬ調子だった。前野は肩をすくめる。
「必要な話は聞き終わったのでご自由にどうぞ。妹さんは未成年ですし、こちらも長く引き留めるつもりはありません」
「ただ、状況によっては、またお話を伺う場合があります」
大迫がすかさず付け足した。ぬかりのない男だ。前野は後輩の刑事をそう評する。
「そうですね……その時は妹さんはではなくあなたの方に連絡を入れても大丈夫ですか?」
「ええ、それで構いません。いきなり妹のところに押しかけるのだけはやめてください」
大迫の言葉に葵が答える。
「お話はこれで終わりですか? それなら、私達は失礼させてもらいます」
「分かりました。ご協力、感謝します」
前野の言葉に葵は小さく礼をすると妹を連れて公園から離れた。
妹は空嶋に何か言いたげだったが、姉に無理矢理引っ張られる形で連れていかれた。
そう、空嶋だ。
存在を忘れかけていたが、彼がまだ残っていた。
空嶋は家族に連れていかれる少女を心配そうに見つめていた。やはり、あの姉妹に何かあるのだろうか?
彼には保護者が来るまでここで待機してもらわなくてはならない。時間はまだある。話を聞いておくべきか……。
前野は大迫に目配せをする。その意図を察した大迫が空嶋に声をかける。若いのに感のいいヤツだ。
空嶋のことは後輩に任せて、前野は現場となった公園を観察する。
古くなった遊具が点在するだけの寂しい公園だった。場所も悪い。住宅街や駅から微妙に離れている。どうして、こんな死角のような場所に公園を作ったのか。ここしか、空いている土地がなかったのか。
だが、人を殺すのには向いているかもしれない。人を殺して死体を隠すのにも。もっとも、犯人は隠すというよりかは、慌てて死体を放置したようにも見える。もし、本気で隠蔽工作をするつもりがあったら、あんな中途半端な隠し方はしないはずだ。
そして、あの、胸に突き立てられたナイフ——。
それが意味するところを考え、前野は「ふむん」と低い声で唸った。
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