一章 アタシと魔法と現実世界の迷い猫

プロローグ

 私はなんて愚かだったのだろう。それが禁書だと知らずに、なんの気なしにその一文を唱えてしまった。


 それはちっぽけな黒い点だった。けれどもその小さな点は空間のあらゆるものを飲み込んでしまった。その中に私自身も巻き込まれ、そばにいた後輩も巻き込まれ、やがて部屋そのものを飲み込んでしまっていた。


 精神と肉体が引きはがされるのではないか、そう思うほどその黒は強い魔力で構成されていた。私は負けじと風の魔法で体を包み、いつか来るであろう感覚に目を閉じた。そして、その感覚はすぐにやってきた。


 水。


 一面の水。


 息ができない。


 苦しい。


 私は必死にもがいた。


 なんなんだこの水は。毒でも入っているのではないのか?そう思いたくなるのは、水中で目を開けた瞬間に激痛に襲われたからだ。視界もあまりよくない。汚染されている。そう思った。


 だが、光が見えた。その光に向かって一心に水をかく。もう息が持たない。早く水面へ。


 やがて水面へと顔を出した私は、欠乏している酸素を必死に取り込んだ。口の中が苦い、それに塩味を感じる。冷静になってここが海だとようやく理解した。


 私は海を見たことはなかったが、書物でそのような大きな水たまりが存在することを知っていた。こんな形で知ることになるとは、私は海を好きにはなれないようだ。


 しかしいつまでも水の上で漂っているわけにもいかない、そう思い、回りを見渡した。


 …私は愕然とした。


 ここが何処かわからないからではない。得体のしれない物体がいくつも見えたからだ。そして私は理解した。理解せざる得なかった。



___ここは異世界だと。




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