人魚の恋

ふわり

第1話 人魚の恋

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あの人は、きっと私には気づかない。


だって、あの人の目に映るのはクラゲ達だから…


初めて見かけたのは夏のことだった。


いつもは海深く潜っているけれど、

その日はなんだか、空を見たくなって。

決して手の届くことがない、不思議な空を…


(海の上は怖い所だから、行っちゃだめよ)


みんなからはそう言われていたけれど、

どんな世界なのか気になって、

私は何度か海の上を見に行った。


そこは明るい場所だった。

遠くから陸を眺めると、見たことのない生き物を見つけた。

私とは違う姿…!

どうしてあの生き物は水がないのに動けるんだろう?

初めて見る「人間」は新鮮で、不思議だった。


それから何度か、また海の上を見に行った。

あの生き物が「人間」という生き物だと知った。


「人間」は怖いから決して近づいちゃだめよ。

母さんはそう言っていたけれど…


ある日のこと、また、「人間」が浜へとやってきた。

いつも何をしに来ているのだろう?

遠くから様子を見ていると、どうやらクラゲを見に来ているようだ。

プカプカと浮かぶクラゲを楽しそうに眺めていた。

その目が、とても優しかった。


いつの間にか、私はその「人間」に恋をしていた。


恋…?

これが恋というものなんだろうか?

わからない。

でも、あの「人間」に会いたくて、

毎日のように陸を見に来ていた。


私は海から出られない。

だって、私は人魚…「人間」とは違って、足がないもの…


こんな姿を見られたら、きっと驚いて逃げていってしまうだろう。

だから、遠くから見ることしかできなかった。


クラゲになりたい…

人魚はそう思った。


手の届くことのない世界を、

今日も眺めに行く。


人魚の恋は、きっと実らない。

それでもいいの。

あの世界を、知りたい。


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