藪の中
@kyudo
第1話 序章…ってわけでもないんだけどさ…
何が
「いやぁ西日が眩しくてブレーキランプが見えなくてねぇ」
だ。
人が信号で停車してるところにノンブレーキで追突してきてそんなセリフ、言い訳にすらならないっての。
「ごめんなさい」の一言も言わずに、しかもタメ口でグダグダ何がをくっちゃべるその老人を無視して、俺こと下河原友也は自分のスマホで110番通報した。
令和になって早4年、初夏…むしむしと盛岡の初夏の空気が不快にポロシャツにまとわりつく
早めに仕事を切り上げて、慎ましくいっぱいやちに行こうと思っていた矢先に追突事故、首にはっきりと違和感がある…多分首をイワした
自分が置かれている状況を素直に嘆いて舌打ちをしながら、俺はかつて自分が数年間在職した警察に(もちろん今はやめている)現在の事故状況を淡々と述べている
《今最寄りの警察官がそちらに向かっていますのでしばらくお待ちください》
《怪我はありませんか?出血はありませんか?》
はっきり言って、早くきて欲しい…目の前のジジイが鬱陶しすぎるから
ジジイは自分の車の助手席から何やら凍らせたペットボトルを出してうまそうに飲んでいる…何飲んでんだこのバカ…
「なあ、お兄さん、怪我とかどうだい?ひどくなりそうかい?」
手の甲で口を拭いながら聞いてくるジジイに俺は一言
「あのさ、お前俺の車にぶつかってきて結構時間経つけどさ、普通ごめんなさいっていう言葉から入るものなんじゃないの?」
ジジイは決まりが悪そうにモゴモゴと口をうごかして、道路脇に寄せた自分の車に近づき、ひしゃげたバンパーを所在なげに撫でまわし始めた
まぁ、わかっていたことだ、70歳過ぎの男性には「謝れない」タイプの人間が現実として多い、コイツもその類であるということだ
俺もジジイ同様道路脇に寄せた自分の車に体を預けて、首に手を当てて深呼吸し、やっと到着した警察官たちの姿を何やら傍観者のような気持ちで眺めている
気温28℃…盛岡市
湿気がすごい
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