第14話 ここでお前は退場だ
「なぜだ……どうして、仲間じゃなかったのか! ……なんて、品のない台詞は吐くなよ、
「パック…………」
腹部からナイフを抜かれると同時、痛みに耐えきれず地面に倒れた。
渇いた地面でも吸いきれない鮮血が血溜まりを作り、僕の身体を濡らす。
僕の苦悶に歪む表情を見てパックは、ゆっくりしゃがんで言った。
「お前の魔法だけが不確定要素だったんだ、
淡々と、いつもの調子でパックは語る。
今までのパックが偽物だった……のであればどれだけ救いだったのだろう。
僕の血に濡れたナイフを当たり前のようにタオルで拭くその様子も、依然のパックのままである。
寧ろ──何一つ動揺していない。
悲しみも、怒りも、楽しさも、苦しさも感じていない。
そんな感情のない目で僕を見る。
「だからほら、お前の相棒だってこの通りだ」
「──! ティアをっ!! お前!!」
傷の事など頭から消え、怒りに任せて掴みかかるが、パックが軽く後ろに下がっただけで回避される。
今の僕はそれだけ弱っていると言う事だ。
「まぁ待て。よく見ろよ、その目で」
死に体で、頭だけを動かす。
パックに指示された先には、ティアの口元に布を押し当てるセキナの姿。
既にティアの意識はなく、ゆっくり地面に下ろされていた。
「あいつは薬で眠らせた。魔術と魔法は強力だからな。強い薬で眠ってもらわないと困るのさ」
「何が……、目的だ!」
「……。まぁ、情けない質問じゃないだけ、マシか。
決まってるだろ? 目的なんざ一つだけだ、お前の脱落。そしてポイントの独り占め。いや、この場合は二人占め? アヤメもいるから三人か」
「独り占め……?」
「ああ。今回は持ち帰った魔核がそのままポイントになる。どうせアヤメに
魔核の取り分は平等に四分の一と決めてあった。
つまりパックは、僕らと共に魔物をあらかた討伐した後──その全てを強奪するつもりだったのだ。
だがそう考えるとおかしい。
折角、
まず力を合わせて戦って倒した後に、僕らを攻撃して強奪という手段もあったはず。
だがパックは先に僕らを始末した。
戦いの後、消耗して計画が失敗することを恐れたのだろうか……?
どちらにせよ、今の僕にそれを知る術はない。
「まぁお前に言ってたこと全てが嘘ってわけじゃあないんだぜ? でも大体嘘だ。セキナの魔法も厳密には透明化じゃないし、俺の魔法も加速じゃない」
「な……に……?」
「お前まさか本当に魔術も使わず、通常の
「そ……んな、こと── ア゛ッ」
つまらなそうに僕の髪を持って頭を持ち上げる。
身体は脱力しきっていて抵抗することは叶わない。
顔を鼻先まで近づけて、パックは言った。
「いいや、乗ってたのさ。じゃなきゃ、透明化の俺らに気を許す事はなかったからな。少なくとも俺は警戒するぜ」
「ッ── ン゛ア゛ッ」
そう言ってゴミのように僕の頭を投げ捨てる。
流れるように僕の頭を踏み付けた。
「この学園は、勇者というたった一つの椅子をかけた、騙し合いで、蹴落とし合いで──殺し合いだ。
俺もあの時の模擬戦見てたんだぜ? アヤメの言葉はある意味真理だ。真っ当な学園生活を送ろうとしてんのは、お前と、ティアくらいなもんだろ」
あの時の模擬戦とはフラムとの戦いだろう。
あの野次馬の中にパックは紛れ込んでおり、多分──いやきっと、その時からこの計画を考えていたんだろう。
でなければ、魔法の虚偽など事前に用意は出来ないはずだ。
それだけ前から、彼は僕らを騙すことだけ考えていたんだ。
そう思うと、
ティアの一緒に頑張ろうという言葉を思い出して、
鵜呑みにして彼らを一欠片も疑わなかった自分に対して、
酷く吐き気がした。
「早くしないと、
終始無言だったセキナの言葉にパックは頷くいて、行動を開始する。
僕を跨いで、森の奥へと歩いていく。
霞む視界、朧げな意識、消えていく力を感じながら、這って手を伸ばす。
もうほとんど認識も出来ない、元仲間たちに向かって。
「ま…………まっ、て」
「殺さなかっただけ感謝しろよ。とはいえ、動かれても困るから麻痺毒を刀に塗らせて貰った。巨人が一日動けなくなるってしろもんだ、もうそろ口もきけなくなる」
「パ……く……! セキ……なぁ……っ!」
「次第に意識もなくなるさ。ティアにも同じ毒を使ってある。まぁ、取りこぼした魔物に襲われないことだけ祈って、ゆっくり眠りな。ここでお前は──
もう視界は消えてなくなった。
考えることすら
---
その頃アヤメ・フレイムクラフトは、森の最奥まで到達し、生息していた
語弊はない。
パック達が現在追跡中の
「六十七……。存外多いものね」
曇天は変わらない。
しかし、アヤメの立つ世界は光に満ちていた。
アヤメ自身が放った炎によって。
「焼き過ぎたわ。まぁ……野生動物も根こそぎ食われていたし、そもそも森として死んでいる……か」
そう言って、炎上する森を哀しげな目で見つめている。
そこは炎の地獄だった。
生命が存在する事を許さない、圧倒的炎の暴力。
一帯を埋め尽くす炎は、森全体の30%焼き払っている。
それはもうじき、40%に到達しようとしている。
そんな地獄の中を、アヤメは平然と歩いていた。
熱さは感じず、汗一つかいていなければ、皮膚も髪も焼けはしない。
炎に愛された血統だ。
世界で最も信頼出来る従者は己が主人に牙剥く事はしない。
アヤメが手のひらを向ければ炎は嬉々として燃え上がり、
奏者のように指を走らせれば、炎は嬉々として踊り出す。
炎の支配者──フレイムクラフト。
炎の大海を悠然と歩く彼女はその素質だけで言えば、この世に百人といないAAA級にだって負けないだろう。
きっとS級とだって対等に渡り合える。
彼女が炎海を歩く様は、そう彷彿とされる神秘的な光景であった。
「ん……」
暫く歩いて、漸く彼女のレーダーは標的を捉えた。
「……二キロ先。大分離れてしまっていたのね。しかも、近くに二つの生命反応に……少し遠くにもう二つ。候補生……ね」
目を閉じる。
地面を伝わって感じとる熱センサー。
目を開ければ、高い熱を持つ者を壁越しに視認する事も出来るが、炎に囲まれた今では
故に、位置は大分大雑把になるが、遠くまで探知出来る
方角さえわかればこっちのもの。
先を越される、もしくは候補生が負けてしまう《・・・・・・》前に、到達せねばならない。
アヤメは足裏から炎を噴出させて加速する。
到着まで凡そ、五分もかからない見込みだ。
だから、心の片隅で切に願う。
それまでに、どうかどうか──誰も死にませんように。
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