温かい桃色の庭

ひきがえる

温かい桃色の庭

寒々しい冬を乗り越え、

だんだんと暖かくなってきた時季に、

「おはよう」と相変わらず、

こんな僕に話しかけてくれる君が、

いつもより可愛らしく見えた。


綺麗に雲がかかった空は、

以前より幾ばくか近づいているように感じた。

透き通るような空がやっぱり好きだと君は言うけど、

僕は君とみているこの空が好きだと、

いつまでも頭の中でそんなことを反芻してる。


温かい庭には、

まだ桃色の花は散見される程度で、

別れの季節にこの庭が桃色に染ったら、

きっと心も温まるのだろう。

いつかと描いた桃色作戦も、

実行することなく終わるんだろう。

この気持ちを花に例える僕は、

やっぱりどこか女々しくて、

温かい君の笑顔をどこか寂しく見つめてる。



やっとの思いで誘ったカラオケ。

君は別れの歌が好きなんだね。

僕は考えるのも嫌で、

出会いの曲をたくさん歌った。

あるいは、

君に伝えたかったのかもしれない。

こんなにも桃色な心を、

君に伝えたかったのかもしれない。

奇跡を祈って、

大好きだ大好きだと歌いながら。


星を横目に下る坂には、

自転車を漕ぐ僕と、

後ろにいる君しかいない。

もうとっくに日は暮れて、

今日は、星が綺麗に泣いている。

何度も流れるその星に、

縋るような思いで願った。

背中に感じる温かさが、

ずっと続きますようにと。


校庭は桃色に染まり、

終わりを告げるチャイムがなる。

皆めいめいに泣いては笑い、

気持ちよく別れを終えたのだろう。

僕はやっぱり女々しくて、

華々しく散ることも出来なかった。

君から来た「またね」のLINEも、

素っ気ない返事で終わらせた。

本当は終わらせたくないんだろ?

そんな囁きと自我の戦いがやっと終わった。

結局僕は女々しかった。

諦めたり、身を引くことが出来なかった。

終わらせられなかった。

終わらせたくなかった僕は、

泣き崩れそうな気持ちを押し殺して、

君をこの温かな庭へ呼び出す。


桃色作戦を実行するために。

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温かい桃色の庭 ひきがえる @Hikigaeru0808

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