9・決戦の大空へ

「おいおい、器に入れば、即化けるのかよ」


 朝矢は舌打ちをへする。


「ギターが化けたのか? 俺には消えたようにしか見えないぞ」


 尚孝の発言からいって、それはどうやら具現化していないようだ。朝矢のような能力者には見えるが、尚孝のような霊力のないものには全く見えない。


 もちろん、あえて見えなくしている可能性もあるが、朝矢には見えているのだからそのメリットはまったく感じられない。


「芦屋さんに見えないなら、さほどのことはないな」


 朝矢はそう結論づけた。



「相手の力量を俺で計られても困る。それに、いままでやっかいなことになっていただろう」


「確かにそうだな。まあ、まだ面倒な状況なのは変わらねえ」


 朝矢たちはステージ下を見る。


 そこには、霊力を黒死蝶の吸われた人間がゾンビのように彷徨っている姿がある。成都と桜花がそれらに応戦し、愛美が歌い続けている。彼女の前には巨大蛾へと変貌を遂げてしまった武村がもがいてている姿が見受けられた。


「あいつも助けないとな」



朝矢は巨大蛾を見ながらつぶやく。その様子に尚孝は口元をほころばせた。


「とりあえず、お前はステージ上にいるやつらをどうにかしたほうがいいな」


「芦屋さんは?」


「それよりも霊力は回復したか?」


「松枝のおかげでどうにか」


 朝矢は歌い続ける愛美を見る。


「そうか。無理はするな。また暴走しかねん」


「それは大丈夫」


 朝矢はグランドのほうを見る。


 そこには桃史郎とナツキが駆け付けてくる姿が見えた。


 それを確認した尚孝が「それなら大丈夫」だとステージから飛び降りるとすぐに襲い掛かろうとするゾンビの群れを蹴散らし始めた。


 もちろん、警察とはいえどもただの人間にすぎない尚孝には、ゾンビたちの機能を完全に停止させることはできない。すぐに立ち上がってきてしまう。


「くそっ、とにかくこいつを停めないとどうにもできないな」


 朝矢は目の前にいる大型の黒死蝶に向かって弓矢を構えた。



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