8・文化祭の出し物

文化祭においての出し物は部活とクラスが各々で出すことになっている。生徒のほとんどが部活に所属しているために部活での出し物とクラスの出し物の二つを受け持つことにもなる。大概はクラスの出し物はどこの部活にも所属しないいわゆる帰宅部がメインとなる。


三年生においては、一月の全国大会の予選を控えているバレー部とサッカー部以外は引退している。ゆえに部活動とはすでに切り離されており、クラスでの出し物に専念しているわけだ。


 もちろん、部活組もクラスの出し物に携わらないわけではない。当日は帰宅組メインだが準備のほうはクラス一丸となってやるのだ。


 武村は一応弓道部に所属していることになっている。まあ、住んでいるところが弓道場なのだから当然の流れで、この数日の間には何度か矢を射させてもらっていた。


 そういうわけで、部長の弦音が文化祭実行委員ということで今回の文化祭の出し物のリーダーにされたのだが、なにをしていいかわかるはずがない。ただ救いといえば、バスケ部との共同での出し物というとで『お化け屋敷』を開くことになったことだ。お化け屋敷の会場は弓道場で中庭にテントを張って中にさまざまな仕掛けを施すという手の凝りようだつた。生徒としては他の出し物もみたいということで当然交代制で、部員たちが幽霊役と受付役に分かれる。


 武村の正体は正真正銘の幽霊だ。それが幽霊役というのは滑稽なことなのだが、それを知っているのは弦音しかいない。


武村は言われるままに手作りの甲冑姿に長い髪のカツラをかぶるとたちまち落ち武者姿になる。その姿はかつての自分を思い出される。


もうずいぶんむかしの話だ。


 太閤殿下が死んで、石田三成と徳川家康が対立した関ヶ原の戦いを得て、徳川が天下を取った。それから数年後に起こった闘いにおいて自分が仕えていた殿が滅び、その嫡男も処刑された。その光景はいまでも覚えている。必死に助けようと矢を放ったのに届くこともなく、消えていく幼い命。それを勝ち誇ったように見ている自分の宿敵の姿が目に焼き付いて離れない。それでもようやく討ち果たしたのだ。何百年も得て一機報いた。それにより浄化されたはずの魂が時折、揺さぶられてしまう。


「どうしたの?」


 突然、麻美が話しかけてきた。


 武村は麻美の顔が目の前にあったためにドキッとする。一瞬で過去の蟠りが消えていき、現実世界へと引き戻されていく。


「いや、その……」


 武村が動揺していると、麻美が怪訝そうに首を傾げていた。


「麻美~。交代だよ~~」


 すると、バスケ部の女の子たちが麻美に言った。


「うん。お願いね。横谷くんもそれ脱いで、文化祭回ろう」


 麻美がいう。


「え?」


「えって……。杉原君たちもいないし、私も一人。いっしょにまわる?」


 そういって笑顔を向けられる。


 武村は沸騰してしまうのではないかというほどに身体が熱くなるのを感じた。しかし、この肉体はマネキンだ。それなのに体内から湧き出てくる感情というものがあるということが不思議だ。


 それでも抑えきれない感情が支配しそうになる。


「デート? もしかして付き合っているの?」


「違うわよ。ただの友達よ」


 麻美があっさり否定するものだから、武村の沸き上がる感情に突然水わ浴びせられ、鎮火しそうになり、がくっと肩を落とした。


「横谷くん?」


「いいです。いいです。拙者一人で回るでごさる」


 うなだれたまま、弓道場を出そうになね武村を突然麻美が腕を掴んで止めた。


「え?」


「そのまま行くの? 脱ごうよ。動きにくいでしょ」


 麻美にいわれて、甲冑姿の自分に気づいた。


「早く。早く脱いで。いこう」


 麻美はテキパキとした手つきで甲冑を脱がせる。武村はたちまち、制服姿へと戻った。


「行こう」


 そのまま、武村の手をつかむと走り出す。


 武村はただ彼女に引っ張られるままに足を動かした

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