7・弓の才能
弓道よりは才能がある。
裏を返せば、弓道の才能はない。
そういわれている感じもした。
確かにナツキのいうことは間違いではない。
確かにまったくというほど弓矢の腕が上がっているようには思えない。三年が引退して二年生が自分一人ということで部長なんてやっているのだが、その腕前は確実に後輩に追い抜かれている。大会にさえ出れるかどうかわからない状態だ。いや出たとしても、さんざんな結果に終わることは目に見えている。
ときおり思う。あのまま、野球を続けているべきではなかったのだろうか……。
そうしたら、それなりの成績が残せていた自信はある。されど、それなりの評価をもらえていた野球をやめてまで、弓道の道に進んだのは、やはり大好きな祖父の影響が強かった。
母方の祖父は弓の名手だった。いくつもの大会に出場してよい成績を残している。そんにな祖父の腕を何度も見て、いつか自分もやりたいと思っていた。
『無理だ』
そのことをいうと、祖父は悉く否定した。
『え? なんで?』
『決まっている。お前には才能がなーい』
そういいながら、首筋を手で切る素振りをする。
『なんでだよおおおおおお。じいちゃあああん』
幼い弦音は涙目になった。
『決まっている。お前は父親に似て、そういう系はまったく無理だ。むりむりむりむりむりいいいいい。せめて、母親似であったならばよかったのにのおおお。ああ、嘆かわしい。せっかく、わしが弓にちなんで弦音と名付けたのにのおおお。まったくもって才能にめぐまれんとは、嘆かわしいいい』
そういいながら、泣きマネをする祖父。
だんだん苛立ってくる。
確かに祖父へのあこがれもあったが、自分を小ばかにした態度を見返してやろうという気持ちもあったのだ。だから、高校は弓道部のある学校に入った。もちろん、祖父がまったく教えてくれなかったために、ド素人同然だったために最初から強豪に入れるわけでもなく、好成績の実績のない学校の弓道部にはいったのは、自分の実力でも試合に出れる見込みがあったためだ。確かに試合には出れた。その代りに現実を目の当たりにすることになったのはいうまでもない。
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