5・シャワーでペンキ流していると

 ペンキまみれになった弦音はその足で校舎裏にある合宿所へ向かった。髪の毛にもしっかりとペンキがついてしまった。


 そういうことで弦音は一度シャワーを浴びてこいという先生の指示て、校内に唯一入浴室がある合宿所の鍵を借りて向かうことになった。


 合宿所はそんなに新しくはなく、それなりに年期の入った場所だった。ゆえにモノノケたちの巣窟だ。ほんの少し前まではまったく気づかなかったのだが、宿所内へと足を踏み入れた途端に小さなモノノケたちが蠢いていることがわかる。


 それを見ないようにしているが、どうしても気になって仕方がない。


「お前って本当にまだまだなんだなあ。視界にいれなきゃいいだろうよ」


 なぜか弦音の肩にいる金太郎がからかうように言った。


「そうしているつもりだけど、入ってくるんだよ」


 モノノケが動きを停めているときは、弦音の目線から消える。けれど、少しでも動きだしただけでも目に映るのだ。視界に入れないようにと思っているのだが、声まで聞こえるから収拾がつかない。


「おかげてこの前の小テスト赤点だったぞ」


「それ俺たちには関係ないぞ。そもそも。お前成績元々悪いだろう」 


 シャワー室へと向かった弦音は、ペンキだらけの制服を脱ぐ。


「なんで知ってんだよ」 


「へへへへ。モノノケたちに聞いたんだよ」


「はい?」


「ここのモノノケ達は人間どもの成績全部把握しているんだぜ。おまえ一年のときから赤点ギリギリだったらしいじゃねえか。あ、追試も受けてたなあ」


「うるさーい」


 弦音がパンチを食らわそうとしたが、簡単に避けた。


「ハハハハ。遅いなあ。お前」


「この逃げるな。こら」


「へへへへ。ちょろい。ちょろい」


 しばらく弦音と金太郎が追いかけっこしていた。


「なにやってんだよ。お前ら」


 すると別の方向から声が聞こえてきて、弦音も金太郎も動きを止める。振り返ると朝矢のあきれた顔があった。


「有川さん? どうしてここに?」


「お前がここにいるって聞いてな。しかし、すごいことになっているなあ」


 弦音のペンキまみれの姿を見ながら、なぜか関心したようにいう。


「いや、その……」


 どう応えればいいのか困惑する。


「まあ、いいけどさ。それよりもお前ドラムできるか?」


「はい? した事ないですけど」


「そうか。そうだよな。おまえ、バンドとか似合いそうにないよな」


「は? 何の話ですか?」


「やっぱり、こいつ、ダメじゃないのか?」


「ええええ。絶対にいけるよおおお」


 今度は背後から声がした。


「うわあ」


 振り向くと、弦音のすぐそばにナツキの姿があった。思わず仰け反る。


「やっほー。ツンツン」


 驚いている弦音に対して、ナツキは満面の笑顔を向けた。


「うーん」


 かと思うとなぜか眉間に皺を寄せる。


「ツンツンって……」


「はい?」


「あそこが小さいねえ」


 その言葉で弦音は自分が真っ裸であることに気づいた。


「うわああああああああ」


 弦音は顔を赤くしながら慌てて秘部を隠すと、浴室のほうへと急いで駆け出した。


「あははははは。ツンツン。面白い」


「別に構わんだろう?男同士なのだからな」


 朝矢の隣にいた山男があきれ返ったようにいいながら目を細める。


「あははははは。ツンツン。純粋♡」


 その様子を完全に楽しんでいるナツキに朝矢は目線だけを向けた。


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