4・とんだ災難

「ハクション」


 突然クショミをしてしまった弦音は、飛び出てきた鼻水を指で拭いている。


「ちょっとおお。杉原~。やめてよお。汚いからちゃんとティッシュで拭きなさい」


 すると、すぐ隣で作業をしていた樹里がそう言いながらポケットに入れていたポケットティッシュを差し出してきた。戸惑う弦音は早くしろとばかりに突き出され、ぶしぶティッシュを受け取る。


「サンキュー」


「さっさとしなさいよ」


 弦音がポケットティッシュの一枚取り出すころにはすでに樹里は背を向けて作業を再開している。


 彼女の後姿とティッシュを交互に見た弦音は、このティッシュはさっきまで樹理のポケットの中には入っていたものだ。なんとなくだが、彼女の香りが染み付いているような気がして胸が熱くなる。そう考えてしまった弦音はそのまま鼻を噛むのではなく、なぜかほっぺをスリスリとティッシュでぬぐい始めた。。



「ツル。そこじゃないよ。その鼻水をどうにかしろよ」


 同じように作業をしていた亮太郎のツッコミで我に返った弦音は垂れてくる鼻水を慌てて拭き取る。


「ねえ。ねえ」


 あきれている亮太郎に園田先輩が話かける。


「どうしたんですか?」


 亮太郎が振り返ると、園田の顔がすぐ近くにあった。亮太郎は思わず仰け反り離れる。その拍子に弦音にぶつかってしまい、弦音はそのまま前のめりに倒れこんでしまった。運悪く、そこにはペンキの入った大きな缶が置かれており、缶がひっくり返ると同時に弦音の頭へと降りかかった。


「ちょっと、なにしてんのよ。杉原」


 顔を上げた弦音の髪と顔が絵具の色に染まっている。


 その様子にあきれ返る樹里と、面目なさそうに謝る亮太郎の姿があった。亮太郎の隣で園田が呆然としている。どうやら、弦音の惨劇が自分のせいなのかと模索している最中らしい。それ以外のものたちはクスクスと笑っていた。


『あはははははは。まじでドジだなあ。あはははは』


 その中でも一番爆笑していたのは、なぜかずっと弦音のそばにいるモノノケの金太郎だった。床のうえでゲラゲラと笑っている。


 笑うなああああ


 そう叫びたかったが、なにせモノノケが見えない人たちばかりだ。ぐっとこらえて、笑いころげる金太郎を睨みつけた。



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