3・回想

 脳裏には、全身ずぶぬれで血の気の引いた“彼女”の姿。


『このままでは死んでしまうぞ』


 すぐそばにいる神狼の山男が心配そうにいう。


「どげんするぎよかとや?」


 朝矢が尋ねる。


「どがんするぎ、助かるとか?」


 必死に山男たちに訴えかけた。


『我らには治癒の力はない。とにかく応急処置だ』


「おうきゅうしょち?」


『人工呼吸するしかないだろう。やり方は教える』


 野風が言った。


「わかった」


 朝矢は全く迷わなかった。いまにも死にそうな女の子を助けられるならば、どんなことをしても厭わない。


 朝矢は野風の教えられた通りの蘇生法を行った。


 その時に結果的に口づけという手段を用いたのだ。ファーストキスというならば、その行為を示す。






(ある意味、あれが俺のファーストキスに当たるが……)


 朝矢は涙目の愛美を見る。


「だれでもいいだろうが……。ぼけ」


 朝矢はそれでも問いただそうとする彼女の口を手で塞いだ。

 

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