5・ファーストキスの行方
1・青子の来訪
時間を遡ること数時間前。
学校が終わったころには随分と日が沈んだ午後五時頃。
朝矢は偽装実習を終えて“かぐら骨董店”のほうへと向かった。
武村もいっしょに連れてこようかとも思ったのだが、武村は学校から出ることができない。なぜかはよくわからないが、出ようとしても見えない壁に阻まれて校門の前で見事に転倒してしまった。もう一度校門から出ようしても結果は同じだ。
そこで朝矢は元々武村がいた弓道場にいるように勧めた。ちょうど弦音もいることだし、弓道部が練習している間は見学にきたとか弓道に興味があるとか適当にいって居させてもらうことになったのだ。
実際に武村は元々弓士だ。戦乱の世において、弓を用いて戦いを挑んでいたらしい。あの有名な真田幸村の家臣だったとかどうとかで、大坂の陣において討ち死にしたらしいのだが、事実はさだかではない。
とにかく、部活が終わるまではそれで対応できるだろう。その後も弓道場にいてもらうことになるが、果たして部員たちに疑念を抱かれずにうまく対応できるか、些か不安がある。なにせ、弦音はすぐに顔に出るし、武村もあまり自体を把握していない。
いろいろと不安要素はあるが、一応山有高校はじめてきました的な朝矢が口出しするのは妥当とは言いがたい。
(武村がマネキンに見えたまんまじゃあ、まずいなあ)
今日一日、弦音と武村の様子わ見ていた朝矢はそう判断した。
「おい、店長い……」
「先輩。お昼ぶりでーす」
朝矢が店の扉を開いた瞬間に、青子の姿が目に飛び込んできた。
「麻生? お前なにしてんだよ」
朝矢は青子を指さしながら、声を張り上げた。
「なにってえ。ちょっとお願いをしにきたんですうよお」
「お願い?」
朝矢は桜花のほうを振り向く。
桜花はまだなにも聞いていないらしく、首を横に振る。
「愛美先輩が戻ってきてからいいますう」
「は? 松枝? あいつに用があるのか?」
「いいえ。みーんなですう。みーんな」
青子はニコニコ笑いながら、両手を大きく広げた。
「ああああああ。青子おおおおおお」
それと同時に朝矢の背後から突拍子もない声が響き渡った。
その声に反応した朝矢の身体がビクッとする。
「どうしてあんたがここにいるのよ!」
愛美は鬼の形相でズカズカと店に入ってくる、その背後には彼女のマネージャーを務めている行慈宮古がおどおどしたように佇んでいた。
「先輩に逢いにきたに決まっているじゃないですかあ」
青子はそう言いながら、朝矢の腕を掴んで自分の体を寄せた。
「ちょっと、ちょっとおおお。朝矢にくっつかないでよおおおお」
愛美がそれを引き離そうとするが、青子は離れようしない。
朝矢のほうはというと、ただ困惑している。
「愛美先輩こそおお。邪魔しないでくださいよお。私たち、キスした仲なんですよお。ねえ、先輩♡」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます