食卓はかぼちゃ一色

夏木郁

幼少期

 砂糖に群がるアリを口いっぱいに放り込まれて、もごもごと噛み潰すような味。

 今日のご飯もかぼちゃだ。

 それなりに腹は膨れるし、甘い味も最初は好きだった。だからと言って、来る日も来る日も出されたら堪らない。もう一生分のかぼちゃを味わった気がする。

 皿の上に、かぼちゃの塊があと二つも残っている。最悪だ。湯飲み一杯の水を喉に流し込んでも、まだかぼちゃの味がする。

 食事中はいつもこうだ。頭の中は、かぼちゃでいっぱいである。

 

「八重子。」

 正面からつんけんとした声が降りかかる。おずおずと顔を上げると、満代みつよ伯母さんが口を真一文字に固く結び、四角い目で私を睨みつけている。こういう時は大抵、雷が落ちる。そのせいで母さんも私を睨む。弟たちは下を向いて黙っている。父さんに助けを求めたいけど、怪我の具合が悪くて寝室でお休みになっている。

「食べ物が無いんはどこも一緒なんよ。ウチはアンタらがおるけんなおさらや。それでもせっかく人が用意してやってるんに、何ね、その顔は。見てるこっちまで気分が悪くなるわ。要らんなら食わんで良いんやけんな。」

「食うよ、食うっちゃ……。」


 伯母さんの機嫌を損ねないよう、心を入れ替えた振りをして、口角を何とか押し上げながら、かぼちゃを箸で掴む。あくびの時くらい大きく口を開けてかけらを放り込み、顔の筋肉全体を使って味わう。飲み込んだら鼻歌混じりに味噌汁に手を伸ばす。我ながら白々しいと思うが、こうしないと伯母さんの苛立ちが長引くし、後で母さんに叱られるのも困る。こっそり伯母さんの顔を覗くと、本人は何事もなかったかのように食事を続けていた。


 「戦争が終わったけえ、これからは我慢せず何でも美味しいもん食べられるようになるんで!」と伯母さんは言っていたのに。嘘つき。

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