あなた、本当にご本人なんですか?

ちびまるフォイ

ご自身を証明できる自信はおありですか

「この保険に加入されるためにはご本人様確認が必要です」


「はい免許証。これでいいですか?」


「……なにを言っているんですか」

「えっ」


「こんなものであなたが本人であると証明できるわけないじゃないですか!」


「いやどうして!?」


「運転免許なんていくらでも偽造できるんですよ!」


「写真付きの身分証明書だよ!?」


「今の画像加工技術の恐ろしさを知らないんですか!

 整形技術も昔より格段に上がっています。

 あなたのそっくりさんを使って免許を偽造することなんて簡単なんです!」


「それじゃ運転免許じゃ本人確認できないのか!?」

「当然でしょ!!」


「じゃ、じゃあ……保険証……」


「あなたバカですか! 運転免許でダメだったのに

 写真もない偽造しほうだいの保険証で何が証明できるっていうんですか!」


「でも他の保険ではこれで通ったぞ!」


「それは他の保険会社がバカでザルセキュリティだからです!」


「だったらDNA鑑定書を提出すればいいのか!?」


「DNA鑑定書は一致率を調べるもので、あなた自身である証明はできません。

 それに完璧じゃないのであなたと同じようなDNA検知される他の人間もいるでしょう」


「どうすれば俺が俺だって証明できるんだよ……」


どうしても加入したい男は腕を組んで考えた。

ここまできたら何が何でも申し込まないと気がすまない。


「そうだ! あんたを俺の地元に連れて行くよ!」


「……それがなんの本人確認になるんですか?」


「俺の両親、祖父母、それに地元の友だち。

 あらゆる人が俺が俺だって本人確認してくれるはずだ」


「その人達があなたに裏でお金をもらって口裏合わせている可能性だってあるでしょう」


「じゃあ、俺しか知り得ないような質問を抜きうちでやってくれよ!

 1問もまちがいなく答えられれば本人だと証明できるだろ!?」


「それも同じことです! いまや本人よりも本人に詳しいファンだっているくらいです。

 あなた自身よりもあなたを知っている人もいるでしょう!」


「もう! どうすれば認めてくれるんだよ!」


「とにかく、ご本人確認ができなければスーパー安心保険には加入できませんからっ」


「お願いだ! このとおり!!」


男は地面に手をついて土下座した。

ひたいをゴリゴリと床にこすりつけている。


「どうしても……というなら、方法はあります」


「俺が俺だっていう証明ができるのか!?」


「こちらへどうぞ」


案内された部屋の奥には椅子が置かれていた。

男が座るとなにやら怪しい機械が椅子につないでゆく。


「これから何をする気なんだ……?」


「どうしても本人確認したいんですよね?」


「あ、ああ……」

「では本人確認をしましょう」


スイッチが入ると強烈な電気が椅子を通して体に流れる。


「あばばばばばばばばーーー!!!」


スイッチが一時的に切られた。

衣服は燃えて、体からはブスブスと焦げたような匂いがする。


「な……なにをするんですか……これはいったい……」


「スイッチ、オン」


「あびゃびゃびゃびゃびゃーーーー!!」


ふたたびスイッチが切られる。


「まさこの拷問を通じて本人確認をするつもりか!?」


「スイッチ、オン」


「話聞けよぉーーーぎゃあああーーーー!!」


断続的にスイッチをつけたり消したりするので電気ショックになれることがない。


「あなたは本人ですか?」


「さっきからそう言っているだろ! 俺は本人だ!!」


「スイッチ、オン」


「なんでスイッチ入れるんだよぉーーーぴぎゃああーーー!!」


スイッチが切られる。


「あなたは本当に、本当にご本人なんですね?」


「だから……なんども……そう言ってる……」


「ほんとうですね?」

「しつこいぞ……」


「スイッチ、オン」


「うそですうそですごめんなさいぃぁぁぁぁぁぁーーー!!!」


何度も行われる電気拷問に男の意識は飛びそうだった。


「……わかりました」


「え……?」


「認めましょう。あなたがご本人であることを!」


「い、いいのか……? あんなに疑っていたのに……?」


「電気を通してあなたの体がロボットじゃないことを確認しました。

 あなたは人間の皮をかぶったアンドロイドではないことが証明されています」


「そ、そんなことも試してたのか……」


「人間であるあなたが仮に本人じゃなかったとしても、

 これだけの拷問に耐えてもなお証明したいと思う偽物がいますか」


「いるかも……しれないだろ。

 特別な拷問訓練をしてきた人間かもしれないし……」


「だとしても痛みがないわけではないでしょう」

「そりゃそうだけど……」


「それに、仮にあなたが本物じゃなくて拷問を耐え抜いた偽物だとしても

 これだけの目にあってなお保険加入の意思があるのなら

 それが本人であれ偽物であれ関係ないと思っています」


「店員さん……!!」


「本人かそうでないかなんてささいなことなんです。

 大切なのは信用にたる人間かどうかです。

 あなたは幾多の試練を越えて十分に信用できる人間と判断しました!」


「ありがとうございます!! このお金で保険加入します!!」




本人確認ができた男は嬉しそうに偽物の保険会社の人間へ金を渡した。

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