11
「そういえばさあ……」
俺が切り出す。
「この前の、あれ。テニスネット……あれ何だったんだ?」
「ああ、捕獲作戦ね。あれ、俺が考えた」
竹内が答えて、お茶をすする。目を細めて茶を飲む竹内の姿は老人のように落ち着きすぎていて、高校生とは思えない。
「やっぱりお前か!」
「思いのほか上手くいったね」
「上手くいってねえよ! イメージマイナスだわ、あんなの!」
「いや、思ったより上手く巻けたなあって」
「巻き方かよ! 『わーい綺麗に巻けた』じゃねえよ! 巻き方どうでもいいわ」
ははははと笑ったあと、竹内が、
「実はね……裏話すると、実は、事前の前の打ち合わせでさ、
と暴露。
「マジで!?」
あの
ギューギュー締め付けられる度に強まる密着感! 痛い! 痛えよバカ! もっと強くお願いします! もっと強く! ってなるやつじゃないか!
もし、ぐいっと、手を引っ張られたあのとき、覆い被さるように松林美佐姫先輩の上に倒れてさえいれば……。
「俺、人生最大のチャンス逃してるんじゃん!」
「人生最大のチャンスだったねえ。もう女の子と一緒にネットに巻かれる機会は一生ないね」
「悔やんでも悔やみきれねえ……時間が戻せる能力を持った主人公に生まれたかった」
冗談はさておき……。
「……で? 松林先輩は? マネージャー? 試合出れるの?」
「マネージャーじゃなくて普通に部員だよ。団体戦は女子でも、男子の方になら出られるらしいよ、一応。……でも、美佐姫先輩が出たことはないね……。女子だとやっぱり、力的に……? 結果的にマネージャーみたいにはなってるけど……」
「ふうん。あと、さっき、お兄さんがどうとか言っていたけど?」
うん。と言って、竹内はお茶を一口飲む。
「うちの学校がインターハイに行った時の部長が美佐姫先輩のお兄さんの
なるほど。
松林先輩は、兄の後を追うようにうちの学校に入ってきて、女子靴飛ばし部を作ろうとしたが、うまくいかなかった。それでも廃部寸前の男子部を盛り立て、支えていたということだろう。
「さっき手紙見せたとき『想像以上』とか言ってなかったか?」
「ああ、深い意味はないよ。なんか、
「そうか、そんな人いたかも。俺はすぐサッカー部入ったから…………」
チラシ配りを頑張っている人がいてもあまり気にしていなかったが、松林先輩の顔に見覚えがあったのはそのせいかもしれない。
「美佐姫先輩の行動力は俺も予測がつかないんだよね。気付いたときには動いてるみたいな……。ミハイル君も美佐姫先輩が連れてきたし……」
「あの留学生? それもだよ! なんで留学生いんの? もうお前の部は謎だらけだな! 気になることが多すぎる! 個性派集団か!」
「ははは、ミハイル君はブルガリアからの留学生だよ。俺も驚いた。いきなり留学生連れてくるんだもん」
「そもそも、留学生って部活入れるのか? 試合とか出れんの?」
「そう! 普通はそう思うっしょ? でも、美佐姫先輩、そんなこと調べもしないで、すぐ声かけに行ったからね。ミハイル君に。うちの学校来た日にすぐ。美佐姫先輩曰く『もたもたして、先に他の部に取られたらどうすんの? ダメだったら、その時はその時!』って……。結果的に、どの部より早かったし、留学生も部活オーケーだったし、一人までなら大会にも出れるって、あとでわかった。すごいっしょ? なかなかできることじゃないよ。なんか、そういう人なんだよ」
「そうなんだ……でも、あの留学生もよく入ってくれたな」
「うん。『うちの部員が日本語も、日本のことも教えるから、部活に入らない~?』みたいな感じで誘ったらしい。あと、俺の予想だけど、ミハイル君も声かけられて、嬉しかったってのもあるんじゃないかな? 日本に来たばかりで不安もあったろうし……。ミハイル君、すげーいいやつだよ、アニメとか好きみたいで、日本語もほとんど普通にしゃべれるし……。年は俺達の一個下みたい」
「ふ~ん。じゃあ、一年生ってこと?」
「うん。一年の教室で勉強してるんだって。留学生だから日本とは学年の文化みたいなのが違うみたいだけど、まあ、最近入ってきたから一年生みたいなもんだね」
確かに、友達ができるかどうかも不安な留学初日に、かわいい女子から熱心に誘われれば嫌な気はしないだろう。
あの
「入ってもいいぞ」
「え?」
「靴飛ばし部。俺が入んないと廃部かもしれないんだろ?」
「ほんと?」
「ただし、来週からな。今週はのんびりゲームでもやるって決めてるから」
昨日見たあの動画。ロベルト・カルロスのシュートにも似た靴の飛び方。あれを見たとき、自分の中で、入ることはほぼ決めていた。だからお好み焼きの誘いにも乗った。入るつもりがないなら、お好み焼きだって断っていただろう。
俺は、靴飛ばしの世界でなら、もう一度ロベルト・カルロスを目指せる。俺は靴飛ばしで「悪魔の左足」になる。
謎だった松林先輩のことや留学生のことも、こうして話を聞けた。
初心者からの靴飛ばしという不安や、人間関係の不安も、竹内が部長なら安心だ。
俺の力を必要としてくれている人がいるというのも大きい。もう入部を断る理由はない。
「よかった~~~~」
竹内は天を仰いで、重圧から解放された表情を見せた。それから、お茶を飲み干してから立ち上がり、俺の分の皿や割り箸などをひとまとめにする。
「じゃあ、タカハシ悪いけど、俺の部屋来てくれる? もうちょっと話しときたいことあるんだ」
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