第57話 - 覆す者 -
周囲の状況を見る。全快になったオッドと将軍は互角の展開、同じく全快のユミと、フローラ&マリーヌの魔導士戦はユミが押していた。
陣の結界が再生したのが大きい。ヒット&アウェイで体力を維持しつつ戦える。ベーリットは相手をしようとしていたルーファウスが急に落ちて困惑ぎみだったが、すぐ状況判断し、シャーロテへ向かう。
シャーロテの拘束を解き、治療に入っていたエスティナが、それをみてハンマーを具現させ迎撃に入る。
「魔力を練る。大輔と遊んでおれ」
「アンナ、シャーロテの救援に戻ってくれ」
大輔と一騎打ちの様相になった。
「さてようやくだ。いくぞ、ドウター大輔。お前の存在は、『異常』だ。現実を教えてやる」
「残念だ。君とは分かり合えるはずだった。『覆す者』カベヤマガード」
「?」
「ちっ」
朝姫の舌打ちが聞こえたような気もしたが気にせず斬りこむ。
「ガード。守るな。流動的であれ。自ずと高まる」
――またわけの分からんことを。俺の名前と正反対じゃないか。ともあれ、今は。
「シッ」「ハァッ!」
ガキッ!
斬り込んだが剣の一撃を早めに放たれ、切っ先付近をナイフのクロスで受ける。
――先端なのに想像以上に重い! これが勇者クラスの一撃か。
側面を取るような足さばきで移動し、斬撃を繰り出し行く。正面は剣士の間合いだ。それを避ける。
「秘剣・朱雀」
剣に炎が纏う、当たらない間合いだがそのまま振り下ろされる。炎圧で大きく後退させられた。ガードの皮の装備が黒ずむ。
――火のエレメントか。俺の風とは相性がイマイチだ。それに加えておそらく異能もある。
ダン! ダン!
離れたのですかさず拳銃を撃つ。が、片手で剣を振るうのみで弾をかき消してしまう。ゆっくりと正眼に構える。剣からメラメラと炎がたぎる。
――ちっ やはり大分実力に差がある。
手が無い状況だが、大輔からは斬りこんでこない。後退したガードの位置が八卦の陣に近いためだ。出入りされながら回復を使い戦われるのを嫌がっている。
攻撃が来ないと読んで、銃弾を水属性に変える。
ダン! ダン!
属性に気づいたのか、今度は片手で払わずにきっちり受けてくる。剣の炎が大きく衰退する。その様子に大輔自身の驚きが見える。
――かなり強い水のエレメントだ。エルめ、大分改良したな。
大体失敗傾向に出るエルの自己アレンジが珍しくいい方に出る。
ダン! ダン!
もう2発撃ってすぐに突っ込む。再度大輔が弾く。剣の炎は消えそうなくらいまで衰える。
ガキッ!
双ナックルナイフで連撃に行く。今度はかなり張り付けてガードの間合いだ。大輔が防戦一方になる。が、剣撃が長引くにつれ、じきにまたメラメラと炎が大きくなり始める。
――クソ!
炎が間に合う前に強引に武器破壊ぎみに剣を押えに行き、蹴りを討つ。しかし片手を離し手甲で防がれる。
――ちっ これだから騎士は嫌なんだ。
剣圧の横薙ぎが振られる。炎でまた後退させられる。
――あっちい! ダメか!
「終わりにしよう。カベヤマガード」
大輔が正眼に構え直す。劣勢のアドバンテージで始まった攻防が優勢にまで持ち直し、自信を持ったようだ。
――調子に乗りやがって。だが後ろで朝姫が準備してるのを忘れてないか?
瞬間――
「くくっ 悪いなガード。大輔は余興じゃ。降龍の舞」
ブワッ!
何を思ったのか、降龍の舞を近くにいたアスティに撃つ。アスティと近衛2名が吹き飛ばされる。
「きゃああああ!」
――は?
その場に居た全員が戦闘を止め、朝姫とアスティ側に振り向く。
「アスティを捕まえよ」
朝姫がガードに言い放つ。その朝姫意外ではガードが最もアスティに近い。理由などどうでもいい。問答無用で駆け出す。衛兵で培った動きだ。すでに命は預けた。この戦闘中の朝姫の言うことは上官の命令だと思えばいい。
大輔が後ろから炎の一閃を放つ。しかし朝姫が札を放ち、炎が絡めとられる。
アスティを捕縛し、首筋にナイフを当てる。本人はすでに気絶している。
――完全に悪役じゃねえか。なんとかしてくれるんだろうな朝姫。
「”探し物”は見つかったか?」
!
鉄扇を口元に携えた朝姫が半笑いで聞いてくる。
「エロ本どころか、本物とはな」
「……ガードさん、本当に最低ですね」
――ふん、なんとでも言え。俺はマユに辿り着く。こいつに魂を売ってでもだ。
”運命の道”というのは、本当ににわずかに物事が前後するだけで、大きく変わる。アスティの秘密を無駄に引っ張ったことが、ガードとフローラの運命を変えたのではないか。そう思った。
城側派にはキツく睨まれる。ベーリット派は展開しだいといった感じで、出方を見ている構えだ。
「アスティ様と大輔の命の交換でいいか?」
「たわけ。私が何のための魔力を溜めたと思っておる?」
「あ?」
「朝丞・起思反魂」
ブワッ
アスティがガードの手を離れ、空中に浮かびだす。中央に光が輝きだした。
「何をする気です!?」
「もう遅い」
浮いたアスティの心臓部から、さらに光の玉が浮き出す。
そして――
朝姫の中に納まっていく。普段通りのニヤついた笑みに戻っている。
ドサッ
光と技が収まり、アスティがそのまま地に落ち横たわった。
「皇女アスティの魂、貰い受けた」
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