第56話 - 本懐の討伐 -

「朝丞・起思還禳」


 パンッ


 朝姫が一泊する。窮地だったベーリット陣営側が、激しい光に包まれ円柱状に上空へ放射する。


「な!? 力が!」


 ダメージが全て消え去り、さらに八卦の結界の耐久も完全再生している。重症だったオッドすら全快だ。


「な、なんという技ですか!」


 相手側ですら度肝を抜かれている。


「魔力まで戻っていますわね、これならば……!」


「なんとか奥義が間に合ったようじゃな。これでも私は早く出せるほうなのだがな」


 ――さっきと同じだ。やっぱ朝姫が何かすると戦局が変わる! 朝丞の巫女、ハンパないな。


 城側派が少しさがり、サイン交換している。持久戦の場合、向こうには軸になる回復職がいない。


「ん?」


 エスティナとアンナが見当たらない。


 !


 見つけると、シャーロテの封を解きに行っていた。


「まずい、シャーロテが!」


「ガード、そんなことはもうどうでもいい、来い」


 朝姫に呼ばれる。ベーリット一味には、ここからは個別に好きに動くと告げた。こちらの方針を聞いてベーリットも陣営に指示を出し直す。


 城側派も陣形を変え、新たなフォーメーションを組み上げる。将軍が最前線、やや下がって大輔、後方に魔導士3人と、さきほどの鶴翼のような形体から魚鱗の形へとなる。フローラとルーファウスが後方で共同で陣の形成に入る。攻めの形体だが持久戦も考慮している。


「狙いは、あれだ。いくぞ。耳を貸せ」


「――そ、そんなことができるのか!?」


「できる。先ほどの私の技で、回数も回復している」


 匕首を構え、結界を飛び出す。すぐに朝姫に付いて駆け出す。すぐ前に真っ直ぐな長いポニーテールがなびく朝姫が居た。


 ――なんだろうか。朝姫と共にこうして戦場を駆けるのが、妙に心地よい。死と隣り合わせなのに。


 敵の中央右を突破する。異変に気付いた将軍の槍の一撃が来る。


 ガキンッ


 なんとか交わす。朝姫は突破した。立て続けに二撃目が繰り出されようとしている。


 ――オプションコール&プット同時発動、12秒後だ。


 シュンッ


「ぬ!?」


 将軍の攻撃モーションが止まり、躊躇する。同時発動すると、どうなるか、考える暇はないはずだ。


 ――決まった。この2撃目の回避だけが、肝だった。


 オッドの横やりが入り、将軍はやむなく捕まる。一気に間合いを詰める。狙った獲物は、大輔だ。こちらに向かい構えを取っている。朝姫が札を2枚放つ。それを大輔は簡単に切り落とす。


「降龍の舞」


 暴風が大輔を襲う。これも先ほどのように剣を突き立て、剣圧で相殺する。その後ガードへ振り向くが、やはりOP発動中で攻撃はできず躊躇する。


「解ッ!」


 シュンッ


 ガードが攻撃に入る直前、朝姫がOPプットのみ、解除する。右側面をとった。ナイフの斬撃を見舞う。こちらは剣で受けられる。が、


 ドスッ!


「ぐふっ!」


 反対側から朝姫の匕首が脇腹を刺す。そして


 ズドンッ


 ひるんだところをガードのナイフが背中を突く。


「これで致命傷だ」


 ――2.1.ゼロ。


 OPコールのダメージが入る。朝姫の1撃目、ガードの2撃目がさらに倍だ。2人で同時に引き抜く。


 大輔、即死だ。


 瞬間――


「ご……は……」


 !?


 なぜか、刺された相手が入れ替わっていた。大輔であるはずの者が、魔導士のルーファウスになっていた。


「な? なにが起こった!?」


「ちっ」


 朝姫がアンナの方へ振りかえる。大輔がアンナの肩に捕まっていた。


 ――あれは、変わり身で入れ替えたのか!?

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