第45話 - 対談 -

「皆様ご苦労さまです。時刻になりましたので、ご案内します。これより月1回の定例掃除を行います。中で持ち場をお伝えします」


 戻って行ったアンナの代わりに現れた別のメイドに続いて、ぞろぞろと庭を進む。この中の誰かが、暗殺を狙っている線も考慮してもいい。スキを見て札で朝姫に人数を報告した。


・・・


 中へ入る。巨大なシャンデリアがぶら下がっている、とてつもなく広い強烈な玄関口だ。子爵のギャレンティン家とはレベルが違った。


「――持ち場は以上です。不明な点は問い合わせください。それでは開始します」


 ガードとエスティナだけ、持ち場を伝えられなかった。先のアンナの行動が浮かぶ。スパイとでも報告されたのかもしれない。


 そのアンナがこちらへやってくる。


「お待たせした。2人はこちらへ」


 メイド服のアンナが初めてメイドの仕事をしているのを見た。クナイをぶん投げているところしか見たことが無かった。おおよそ客間と思われる扉の前で止まる。


「こちらへ」


 扉が開く。入室するように促される。罠も最大限警戒する。


「俺がメインで話す」


「……いつもの口八丁に期待しています」


 ハメられた場合は朝姫を頼る他ない。2人で入室する。中で2名が待っていた。


 ――当主じゃない。そしてやはり、大輔か。一緒にいるのは表彰式で見たマリーヌだ。


 マリーヌは赤系のロングの髪に軽くウェーブがかかっている、165cm程度の淑女だ。フローラのような落ち着きがあり、歳はもう少し上、20代中盤くらいか。


「ようこそお越しくださったわ。ん?」


 ピッと指をかざされる。札が消滅させられた。


「アンナ、手荷物検査はしっかりと」


「……申し訳ありません」


 ――こりゃまた、一筋縄じゃいかないな。


 対面して2人でかけさせられる。アンナが茶を入れに向かう。


「よう大輔。久しぶりだな。この前はボコって悪かったな。まさか仕事先とは知らなかった」


 得意の軽口で行く。けん制にはこれが一番だ。しかしエスティナからの視線が痛すぎた。


「それはお互い様だよ。僕たちは、互いを知らなかったに過ぎない」


 ――あーコイツやっぱムカツクわー。


 マリーヌはクスクス笑っていた。喧嘩の話は聞いていたのだろう。寛容な人物のようだ。紅茶が運ばれてきた。


「で? これじゃ仕事じゃなく完全に客だな。要件は?」


「要件があるのは君たちのほうじゃないのかい? 遠慮なく聞いて欲しい」


 ――生意気なヤロウめ。ドウターのくせにすっかり貴族気取りか。いいだろう。


「今現在、当主様はどこで何を?」


「? 午前に城で会議出席を、じきに戻られる時間だろう。それが何か? ハンス様に用があったのかい?」


 エスティナからまた視線がくる。それ以上しゃべるなということだろう。


「アンナはここで雇われてるのか? 違法じゃないか?」


「……アンナはここの使用人と、結婚の書類を提出し、受理されないため係争中だ。よって違法ではなく、結果待ちの状態だ」


 ――嘘くせえ。これだけ権力のある家で書類が受理させられないはずがない。


「そうか。要件は以上だ。仕事を振ってくれ。やって帰る」


 ブラフだ。相手側の要件があるのは分かり切っている。


「……大輔さん?」


 ――やはりな。マリーヌが切り出せと催促した。


「2つ答えたのでこちらも2つ聞きたい」


「あーん?」


 ふざけた口調にまたもやエスティナの睨みを食らう。


「1つ目は、シャーロテ君の救出の手伝いを頼みたい」


 !


「君の、元、婚約者だ」


 ――知ってやがったか。ドウターの仲間のシャーロテの救出が目的と。ひとまずエスティナの驚きの顔は放置だ。


「で? 助けて、再度、婚姻届けを出せと?」


「それが望ましい。が、不本意なら、救出のみでいい」


「……」


「先に、もう1つの要件を聞いていいか?」


「もう一つは、その続きだ。そのまま、僕らの仲間に、陣営にそちらのエスティナさんと共に、加わって欲しい」


 !


「おい、俺のことは調べ済みなんじゃないのか? 生粋のタカ派だぞ。ドウターは、全て討伐だ」


「ユミ=マーガリンを討ちたくはないか?」


 ――! エスティナの掘から埋める気か。しかし今の一言だけで全部繋がるとはな。


「施設保護の依頼を出したのはここか」


「そうだ。個人的な意志は別として、君らの行動は僕たちに協力的だった」


「汚染者など見逃せるはずがない」


「汚染異魂に関しては、移植行為さえ行わなければ、感染はないことが分かっている。本人に害はない」


 仮に今後も汚染異魂保有者が現れた場合は、新たな施設に隔離し、洗浄を行った上で、通常のドウターとして、生活させるという。


「一つ目に戻る。大輔、魔人を倒したんだよな? 実力は十分、シュルーサー公爵家の威光もある。シャーロテの救出に苦難するとは思えない」


「もちろん魔人は倒してはいない。退けただけだ」


 ――それでも相当な実力だが。


 当主ハンスがシャーロテ解放の要望を出していた。そこで、大輔を無理やり勇者へと表彰させ、シュルーサー家へ褒章を与えたので、それ以上の要望は欲張りだ、という形にされてしまったらしい。


 ――そういうカラクリだったか。式典の予定など相当前から入れられるのに、急だった。


「ユミもお前が直接討てばいい」


「……悪いが、マーガリン卿はダシなんだ。君たち勧誘のための。そもそも国内有数の実力者だ。簡単な相手ではない」


 ユミを討つことに拘りはない。が、仲間になってくれるなら、討つ際には必ず協力すると続けた。


「なんで俺とエスティナ? 俺ら雑魚が2人加わって何か変わるとは思えない」


「臨時試験の対戦は見た。あれで雑魚と侮る者がいるなら、真の雑魚だろう。実際、カーリ卿とオッドを退けた」


・・・


「分かった、一度話を持ち帰らせてもらう。仕事は悪いが時間的に無理だ。次の予定がある。もちろん報酬は不要だ」


「おや? 即決しないのかい? まるで僕の祖国の人らのようだ。こっちに来て、好まれないのが良くわかったよ」


「即決を迫るなら100%、ノーになる」


 やれやれと言った表情で、アンナに視線をやる。送ってくれるようだ。


・・・


 外へ出る。


「……すごいですね、カベヤマさんがメインで、とは言いましたが、私は話すことができませんでした」


「気にするな、マリーヌの睨みのせいだ」


 男同士の話に口を挟むなというオーラをエスティナへ向けて出していた。


「私は協力すべきと思います。デメリットがありません。おまけにユミも討てます」


「は? 冗談だろ? ちょうどドウターが集結しているあの家ごと殲滅だ」


 ――エスティナへの恩は返した。つもりだ。俺はもうブレない。


「……意見が割れましたね」


「話を蹴られても分断工作ができる。それが向こうの狙い、という線が濃厚だ。考えた奴もやり手だな。ひとまず朝姫と落ち合うぞ」

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