第29話 - 決闘2 -
「ガードさん、なぜ決闘を受けられたのですか? なにも条件を付けていませんね? 遠慮はいりませんよ」
普通は受ける側が相手に何かを要求することが多い。でなければ単に戦い損もありえる。フローラの提唱はごく普通だ。
「では一つだけ。こちらが勝ったら、アスティ様のことを教えてください」
!
ガードの要求にフローラ、アレクサンデル将軍双方の表情が一瞬こわばる。
「……嬢、そういうことなら、ワシはこの戦い、引き受けぬ」
「将軍、それはなぜですか? 勝てばよいのです」
「ぬ? フフフ、まるで言い様がクリスのようだぞ。よかろう」
フローラは父と比較され一瞬顔を赤くしてしまうが、またすぐ臨戦態勢に戻す。
『それでは、決闘試合を開始します』
ビーーーー!
開始ブサーが鳴った。
エルがやや後退しながら、ふわふわ5メートル付近まで上昇していく。
「エル、作戦変更だ。俺がメインでいく。支援してくれ」
「ん? 作戦はそのままだよ?」
瞬間――
ガキン!
上へ行ったエルのさらに上から、アレク将軍の真下に構えた槍がエルの頭上を襲った。が、上部へ手をかざし、六芒の魔法障壁を展開したエルが前方へ弾き返す。
――はええ! ジャンプの初動が見えなかった!
「ほら、ガードくんが変なこと言うから先制されちゃったよ」
争いを好まず研究者ながら、戦闘となってもエルはほとんど感情が起伏せず淡々としている。これも昔からだ。
相手が魔法防御特化の装備に変更した手前、物理主体でガードが先行する作戦をエルに伝えるがエルはそのままで行くと譲らなかった。物腰の柔らかいエルだが基本的にガード相手でも主張を曲げることはない。いきなり長い付き合いながら噛み合っていなかった。
ズズズッ
エルの横の空間が裂け、神槍リザルエルスラルが姿を現す。
そのまま手をかざし、槍を将軍に放つ。
ガキッ ガッ ガキン!
槍のみが不規則な動きで将軍を連続で襲う。
「ぬう!」
持ち手の居ない槍に襲われて捌きにくそうにする将軍。
上級者ほど相手の呼吸や関節の動きをよく読むので慣れない様子だ。
「今日は槍をエルさんが使うのですね……!」
「よし、俺はフローラ様の手を封じる!」
走ってフローラへの間合いを詰める。好き勝手魔法を打たせはしない。
ガコン!
「ぬお!?」
その瞬間、攻撃に弾かれた将軍がガードに背中から突っ込んできた。
!
ドカッ
ガードの背中に将軍の大きな背中がぶつかる。
反動でガードは前に突き飛ばされた。
「うおっ!」
ぼむっ
そして、さらにその前に居た、フローラの豊満な胸に顔から突っ込んだ。
「……」
「……ガードさん、あなたはという人は……!」
「毎試合、そういうことをしないと気がすまないようですね……!」
ベチーン!
会心の平手が入った。将軍はなにもせず、ガードを不憫そうな目で見送った。
・・・
試合は継続だが、仕切り直しで4者が戻る。奇襲に備えたやや距離を空けた位置だ。
「ひでえ。俺だけビンタで体力ゲージが1マス減ってやがる。でもまあ、今の感じでいこうぜ」
「うーんダメみたい。やっぱり使い手がいないと、槍が叩かれて壊れちゃうよ」
フローラ側も今の攻防について打ち合わせをしている。持ち手の居ない槍を飛ばされるのは想定外だったようだ。
「あ、待って。戦い始めたら皆が話しかけてきた」
「?」
「一級神と契約すると、いろんな霊と交信できるんだよ。俺に戦わせろって何人か言ってる」
「ど、どういうことだ?」
「えっとね、武功のある神様や英霊を私に降ろせばいいんだよ。代わりに戦ってくれるよ」
そんなことができるのは相当な術者だけだ。エルの無尽蔵の魔力がなせるワザだ。
「よし、槍の名手ならクーフーリンて人がいいらしいぞ」
「うーん、私くらいじゃ有名な人は呼べないよ? あ、この人にしよう。同じ風のエレメントみたいだし、心残りがあって、やる気もありそう」
シュンッ
エルが何かを自分に降ろしたたようだ。いつもの危険な赤い目の色が、黒に変わる。
!
「嬢、気を付けろ、仕掛けてくるぞ」
フローラ組が構えと取る。
「……高田郡兵衛、参る」
――誰?
声はエルだが口調が違った。
ガキン!
一足飛びで将軍に打ち込む。
「ぬ!? ぬうう!」
間髪入れずすさまじい槍同士の攻防となる。見た目だけエルの、人が違ったような動きだ。
「な、なんですかこれは……!」
ガードもフローラもあっけに取られて攻防に見入ってしまう。
まさに槍の達人同士の打ち合いだ。
――高田郡兵衛、いったい何者なんだ。
「はっ! ふんぬ!」
将軍に運動量とは別の汗もにじむ。
――――冗談ではないぞ! 英霊ならずとも、一時代の猛者を憑依させてぶつけられては!
フローラがハッっとし、今のうちにと陣の形成に動く。陣は構築すれば移動はできないが、中に入っていれば高い耐久性や回復、状態異常の改善などが見込める。
――やはり水系のエレメント、陣は作らせん!
ガードが中央の槍の打ち合いを避けるように迂回し、フローラへ向かう。双ナックルナイフの連撃を撃ち込んでいく。フローラは陣の形成をキャンセルし、ガードを迎撃する。
うおおお! 互角だぞ!
「――ポロフラワー」
大小さまざまな、動きの遅い水球を生み出し、中距離をキープしながら、
ガードの攻めを防御していく。
フローラは受け士の異名も持つ、テクニカルな防御寄りの魔導士だ。
この受けがあるから魔法防御寄りの防具を選択できるのだろう。
やはり分厚い防御陣形を前にガードの攻め手が乏しい。
――この水球、衝撃緩和効果が大きく、触れると動作が重くなる。かといって避ければ攻撃コースが読まれて短調すぎる。やっかいだな。
一方で、徐々に将軍の体力ゲージが削られていく。もう少しで黄色ゾーンだ。槍捌きは互角。しかし防具の差が出ていた。
――魔法耐性専用の防具の差が大きい。将軍は甲冑でなく革の胴衣だ。物理攻撃に弱い。痛打でなくともそれなりに削れる、だが防具を変えればエルは魔法を撃つだろう。戦局はいい!
しかしエルは突然攻撃を中止し、後退しながら空中へ浮遊していく。
!
――時間切れか? どうなる、再憑依できるのか? それとも冷却時間があるか!? しかしそれを見逃す将軍じゃないぞ――
エルの口が細かく動いている。瞳が普段の禍々しい赤色に戻った。
瞬間――
将軍の跳躍からの槍の一閃が襲う。憑依切れのスキを狙っていた。が、槍が当たる寸前で、将軍とフローラが異空間に転移させられる。エルの正面に大きな六芒の魔法陣、さらにその周囲に小型の魔法陣6つが展開された。
フォンッ
!?
会場の中央に薄く、転移先の空間が映像のように見える。赤茶けた大地だった。
将軍とフローラは突然飛ばされた空間に困惑ぎみだが、すぐに驚愕の表情に変わる。
『これはっ!』『詠唱はええ!』
スタンドの魔導士派の観戦客の少数がざわついた反応を見せる。
「エンシャントメトリー」
――な!? エンシャントメトリー、まさにザ・最強魔法、古代魔法の代表格だ、こいつを詠唱していたのか!
子供のころにごっこ遊びをしているならまずこの魔法を叫ぶだろう。
すさまじい隕石が異空間の2人に降り注ぐ。フローラがなんとか障壁を展開したが一瞬で崩壊し、ただ耐える状況となる。映像側からでも噴煙がすさまじく、もう2人の姿すら見えない。
空間が元に戻る。エルがぼそっと伝えてきた。
「ガードくん、憑依は私の体力じゃ持たないみたいなんだ。あと私は数秒ほとんど動けないから備えてね」
「あ、ああ」
噴煙が晴れるころには槍と杖でなんとか体を支える憔悴した2人が見えた。双方の体力ゲージは一気に橙手前の黄色ゾーンまできた。
――魔法をを75%カットしていてこのダメージ、どうなってんだ!
「ハァッ ハァッ あ、ありえません、この防具でなければ、魔法バリアを全て吹き飛ばし、さらに命の危機すらあった……」
「……かぁッ!」
――――この威力、ルーファウス卿を超える。だが魔導士の硬直は逃さん!
!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます