第28話 - 決闘 -
フローラからの手紙の内容を確認する。国内の公式決闘ルールのようだ。日は3日後、室内闘技場で、臨時試験のときと同じ、魔法バリアの体力ゲージ式だ。
「エスティナとの約束にはまだ日がある。受けられるな。会場は東区ドーム。まさかこんな場所で試合ができるなんてな。緊張するぜ」
少なく見積もっても、フローラはシャーロテより格上だろう。貴族はそのほとんどが相応の戦闘能力を有する。まともに戦っても勝てはしない。だがガードは嬉々としていた。自分のような平凡な存在が理由はどうあれ、その格上を意識させたのだと。
”安定さえしていればいい”。基本的に向上心の無いガードには稀な感情だった。対戦形式を確認する。
「――ん?」
――2vs2の混合チーム戦だと? パートナーを1人つけるということか?
フローラの意図を思惑する。
――魔導士だから前衛が欲しいってわけじゃなさそうだ。べつに有利不利はない。
同世代で貴族であるフローラなら、以前から噂は知っている。戦いで負うダメージが少ないことから『受け士』の異名を持つ魔導士だ。内政家志望のため前線にこそ出はしないが、数々の騎士を打ち負かしている。前衛一人など苦にしない。
「なるほど。やってくれる。人脈も、実力のうち。というわけか」
ガードは薄笑いを浮かべる。フローラなら腕の立つ、数多の知人がいるだろう。その人脈も駆使し、個の能力だけが実力ではないと示すつもりだ。
対して俺は――
「何が何でも俺を叩いて、実力を誇示する気だな。所詮お前は中流だと。上等だ」
――最も誘いやすいのはエスティナだな。斡旋の件で連携する機会も多い。実力も申し分なく貴族共にも太刀打ちできる。何より俺も苦戦したあの、ことごとくの急所狙い、お嬢様にもキツイだろう。
・・・
返信封筒を取り出し、そっと手紙を仕舞う。初めて女性からもらった手紙が果たし状だったガードは実は少し傷ついていた。
・・・
空き家に戻る前に本屋に寄る。失われたエロ本を補充する他ない。
――断っておくが、俺は出会いが嫌なだけで性欲が無いわけじゃない。誰に断ってるのかは知らないが。
さてどれにするか。
1.フローラに似たモデル
2.エスティナに似たモデル
3.エルに似たモデル
4.シャーロテに似たモデル
――さすがに4は置いていない。犯罪だ。3ではいろんな意味で反応しないだろう。2は空き家に持ち込むには危険すぎる。1だな。
(フローラ似のエロ本を購入した)
・・・
しかしガードはやはり後ろ髪を引かれていた。
――諦めきれん。アスティ様に似たあの神モデルは引退してしまった。代えは無かったんだ。幸い金はあと少しある。
廃品で処分されていなければまだチャンスはある。斡旋を出すしかない。南区の斡旋所に行き、依頼をだす。
(奪還希望:失われたエロ本 の依頼を出した)
空き家へ帰宅し、エスティナに3日後の決闘に出場する用件を伝えた。
・・・
-決闘当日-
準備を整え、東区にあるアリーナ闘技場へ向かう。試合をする施設中でも最も大きく、充実した設備となっており、この規模の会場はガードも初めてだ。ドーム状で天井の高さは50メートルを超え、観客収容数も国内一番だ。
アリーナへ入場し、通路を進みながら、男性控室へ向かう。途中一度場内へ入って見渡して見る。
いつぞやのように、スタンドにはエルとその母親がいる。今日は誘っておいた。おなじみの衛兵達がいた。また冷やかしだろう。朝姫もいる。とことん暇人だ。
違いは観衆がそれなりに居たということ。貴族衆もいるということだ。決闘は対戦形式の催しで国内でも最も人気がある。
――フローラ様人気ってのもあるのかもしれんが、俺への蹂躙を楽しみにしてるんだろう。
対戦方式はエスティナ戦の第16話と同じだ。そちらを見て欲しい。体力ゲージが表示され、緑、黄、橙、赤の順でダメージ毎に減っていく。橙を失い、赤になった時点で負けとなる。
前回と同じく仕様する武器を3種登録する。今回はナックルナイフ2本と拳銃とした。控室から入場扉前へ待機するように案内人に誘導を受ける。
『本日は決闘一試合となります。観戦者におかれましては、バリア内安置ラインからくれぐれも侵入しないよう――』
会場内にアナウンスが響き渡る。じきに時間となり、コールが始まる時間となる。係員に先導され、入場位置前で待機させられる。
『挑戦者入場、フローラ=ハンセン』
パチパチパチ
序列はフローラが上だが、決闘は申し込んだ側が挑戦者となる。フローラが優雅に入場し、一礼し中央へ進み出る。
『対戦者入場、ガード=カベヤマ』
「ガードー、また勝ったらおごってやるぞー」
残念だがガードへは品の無いヤジが飛ぶ。周囲を見渡してもこの規模の試合は始めてだった。緊張感を持ちつつ中央付近へ進み、向かい合うフローラを見据える。
『続きまして、挑戦者パートナー』
『アレクサンデル=バルグ』
――なに!?
『おおおおおおお! わああああああ!』
場内スタンドから大きな歓声が沸く。
――アレクサンデル将軍! 遠征から戻ってたのか。
この国最高の竜騎士と呼ばれ、超名門だ。軍部のトップ、つまりガードの実質の最上司にあたる。歳は50手前で、全盛期こそ過ぎ一部の若手に実戦力は譲りつつあるが、騎士の実績は他の追随を許さないレベルだ。
――相当な人選でくるとは思ったが、まさか国内前衛ナンバー1とは。
フローラが不敵な笑みを浮かべる。このためのパートナー戦と言わんばかりだ。ガードがどれだけ努力しようが、作れない人脈。それを目の当たりにした。
「将軍、本日はお忙しい中、ありがとうございます。よろしくお願いします」
「はっはっは。まさかあのフローラ嬢がワシと遊んでくれるとは。槍の稽古中、クリスの後ろに隠れていたのが懐かしい。しかし、そんな出来る相手にはみえないがな」
「釈迦に説法ですが、油断は禁物です」
・・・
『続きまして、対戦者パートナー』
『エル=スラル』
ざわっ! ダダダッ
今度は歓声がどよめきに変わる。客席の何人かは走って帰ってしまった。
「――!」
「ほう」
将軍が斜め上に視線をやる。いつしかのように2階席から浮遊して会場入りするエルの姿があった。
「今度は私がお手伝いだね。よろしくね」
「ああ、頼むぞ。また審判を攻撃するなよ」
「し、しないよ?」
・・・
『うおおおお! すげえカードだ!』
一瞬の静寂のあと、一気に会場が沸き上がる。
「幼馴染コンビで来ましたか。可能性は考えてはいましたが」
――――これが、あの有名なエル=スラルさん。向かい合うだけでも、心が折れそうになる魔力だ。
「フローラ嬢、気を強く持て。対策はしたであろう? そなたに足りぬのは自信だけだ」
・・・
――満を持してエルを起用したが、しかし相手がアレク将軍では。エルは研究者で戦闘のプロじゃない。俺が気にしてるのはそこだ。必ず弱点を突いてくる。
フローラと将軍が防具を変更する。防具は初期着用以外を持ち込む場合は登録枠となる。既存の防具を消失させ、新たな防具を具現させた。
「あ、あれって」
エルが反応する。ローブ、胴衣共に、魔法攻撃全般のダメージを75%カットできる特殊防具だ。その変わり物理系の防御力がかなり低い。
――やはりエルの起用も想定していたか。ますます厳しくなった。
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