第20話 - 奪還の作戦2 -
-朝姫サイド-
「おお、これはこれは」
ギャレンティン子爵が朝姫を出迎える。
「まさか国賓様が当家などへお越しくださるとは。いささか時間帯が神妙ですが、私も貴族の端くれ、なんの、おもてなししてみせましょう」
朝姫から見れば、たしか医務室で食ってかかってこようとしていた男だ。その割には今日は冷静だ。
「娘の婚姻届を寄こすのじゃ。ここにあるのは分かっておる」
「客間へどうぞ。紅茶でよろしいですかな?」
「緑茶じゃ」
・・・
朝姫が入室する。じきに使用人が緑茶をもってくる。あからさまに見えるように、黒いケースが置いてあった。
「外で連れを待たせておる。悪いがそのケースの中身、早速見せてくれぬか?」
子爵は笑みを崩さず、さっそくケースを開ける。中から1枚の紙が出てきた。婚姻届だ。
「お連れ様は娘が退屈させませんでしょう。どうぞ」
・・・
「コピー、ニセモノじゃな」
朝姫が少し魔力を込めると消えてしまった。
「本物は、となりの部屋に保管したのですが、無くしましてな。見つけていただけましたら、そのまま差し上げましょう」
「ふん。道化が」
朝姫はさっさと退室し、隣の部屋へ即向かった。
「おかわりはよろしいのですかな?」
背中越しの声は無視した。断りもなくドアを開ける。
――――なんじゃと!?
その部屋には、さきほどと同じ黒いケースがキレイに、大量に並べ積まれていた。その数、1000個以上。朝姫に普段のニヤついた笑みが戻る。
――――ケース全てから書類の気配がある。この中から1枚の本物を探せということか。子爵め。洒落てるじゃないか。
バラバラバラバラッ
朝姫は腕を前で大きく一回転ぐるりと回し、札を大量に発現させる。
そして手を前にかざす。
ビタビタビタビタッ
大量のケース全体に札がぎっしり張り付く。指を2本前に結ぶ。
「解ッ」
シュンッ
ケース全体が発光し、札が消える。気配は――
――――ダメか。
「焼いてやる」
トンッ
続けて様に朝姫は鉄扇を真下に落とす。鉄扇は倒れずにそのまま立ち続けている。
また指2本を結び、魔力があっというまに圧縮されてくる。
「――還れ。あまねく平常に」
パンッ
一泊打つ。立った鉄扇を起点に、またケース全体が発光する。が、
ニセ書類の気配が消せない。
――――ダメなのか!?
ケースを一つとって開けて紙を手に取る。ニセモノだ。手に取ればニセモノと分かる。だがこの量を一つ一つやっている暇などない。札を一枚重ねる。
「くっ、コピーガードがかかっておる」
同じものを複製して、消してやろうと思ったが、難しいようだ。
「ん?」
『もしもし、朝姫さんですか? 俺だよ、俺。オレオレ。今――』
「やかましい!」
通信札を破り捨てた。朝姫は一度退室し、客室へ戻る。子爵はくつろいでいた。
「おお、おかわりを入れましょうか?」
「相当な腕前じゃな」
朝姫は腕を組み、着席せずに子爵を睨みつける。
「ふむ、かの有名な八式使いを退けましたか。これでも長年コピー魔法の権威でしてな。ピエロが解呪の大御所をおもてなしできて良かった」
――――コヤツを殺せば術も解ける。が、ガードもそこまでは望まぬだろう。なにより術が解けなかったから殺したでは私の名が廃る。
この魔法に自信があるからすんなり中へ通したのか。座って緑茶を飲みながら子爵の魔力の根源をひたすら読む。
――――ここに、本物は、無いな。仮に私がコピーを見破った場合も、想定済みと詠める。だが、ならば本物はどこだ? 気配はある。必ず近辺にある。
「ん!? ふっ」
シュンッ
朝姫は笑うと札を1枚放り転移した。
「ぬお? どちらへ?」
子爵も後を追う。
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