第14話 アルフェリア 12
テントの中で、女性達が休む。ケンは、外で木にもたれながら眠っている。
焚火を見ながらクリスは、ミツヤに話しかけた。疑問に思っていた事を彼に聞きたかったのだ。
「ミツヤは、勇者として違う世界から呼び出されて、何の不満も無いのか?」
「不満は、無いですよ。王が望んで、呼んでくれたのですから」
「元の世界に戻りたいと思わないのか?」、クリスが焚火の火の中に投げ込んだ枝が、パチッと弾けて音を出した。
「戻りたいと思いません。王が僕を必要としてくれていますから」
「じゃあ、なぜ魔獣討伐をしようと思った?」
「王が、魔獣討伐を命じたからですよ」
「魔獣討伐後、君は何をしたい?」
「それは・・・、王が望む事をするまでですよ」
「王が、戦争をすると言ったらどうする」
「王の為に僕も戦います」
ミツヤと二人で話をすると、クリスが感じていた違和感は疑念へと変わる。クリスの問いかけに対するミツヤの返答は、彼の本意では無いように感じた。
「王が、彼の首を取れと言ったらどうする?」と、クリスは寝ているケンを指さした。
「僕の聖剣でケンの首を切り落とします」、眉一つ動かさないミツヤは、クリスの目から視線を外さずに答えた。
眉間にしわを寄せるクリスは、「へぇー、王女を殺せと王が命じたら?」
「王の命令なので殺しますよ」と、ミツヤは不適切な質問だとクリスに反論しなかった。
「最後の質問だけど、本当の君は何をしたい。王に従うのは、君の意思か?」
「僕の意思? 僕は、・・・何をしたい? 王の命令に従うだけですが・・・」
「違う、君の意思は何処にある? 君は、勇者になる事を望んでいるのか?」
「分からない、僕は、何をしたい? 勇者になりたいのか?」
「君が慕う王は、信用するに値するのか?」
「信用・・・、もちろん僕は信用している。王も僕を信用しているはずなのに・・・、クリスさんは、王を愚弄するのですか?」
「愚弄ね、俺はグランベルノ四世を信用しない! 嫌いだからね」
「な、何を言うんですか。それは、僕に対しての侮辱ですか」、ミツヤは立ち上がると、鞘から聖剣を抜き切っ先をクリスに突き付けた。
「ミツヤ、君は王に操られていないか?」と、クリスは核心に迫った。
我慢できなかったのか、ミツヤはクリスに向かって剣を振りかざした。
クリスは、高度な抜刀術を披露する。鞘から神剣を素早く抜き放つと、クリスの聖剣を切ってしまった。刀身はクルクルと宙を舞い、地面に突き刺さった。
周囲が、急に静寂に包まれる。クリスは、周りを見てこの世界の時間が止まった事に気が付く。空中に光の穴が出現すると、慈愛の女神ディアナが出て来た。真っ白な腰まで届く長い髪の毛と白い薄布を何枚も重ね着し、足には白色のグラディエーターサンダルを履いている。彼女は、金色の瞳で何かを探していた。
「もう、誰よ!! 私が勇者に与えた聖剣を切り落とすなんて。信じられない、許さないわよ」と、ディアナはミツヤの手から聖剣を引き抜くと、地面に突き刺さる刀身は宙に浮きゆっくり彼女の手の中に納まった。
「あんたが、慈愛の女神ディアナか」
「誰? 誰なの? どうして動けるのよ」、ディアナは招かざる客に対して露骨に嫌な顔をして見せた。
「俺は、クリス。クリス・アラートだ」
「えっ、あなたが私の大切な聖剣を壊したの?」
「そうだよ。ミツヤが切りかかって来たから、剣で受け止めようとした。刀身が切れてしまったのは、予定外だったけど」
「聖剣に勝る、そんな剣は存在しないはず。もしかして・・・。あなたの剣を見せてくれない」
両腕を組み口をひん曲げるディアナは、クリスを見つめる。クリスは、渋々彼女に神剣を見せた。
「それは、神剣じゃないの。あっ、もしかしてあなたが、創造神の加護を受けた人族ね」
「創造神の気まぐれを授かった、気まぐれ者だよ」
ディアナは、厄介な相手に出会ってしまったと思った。早くこの場から去ろうと、急にクリスを無視して聖剣を修復し始めた。
「無視するなよ。女神の君に聞きたいことがある」
「な、何を聞きたいのよ」
「魔獣を使って憎悪の男神イアが、人族の勇者を排除しようとした。どうしてだ?」
「そ、それは、男神は女神に相反する存在だからじゃないの」、ディアナは目をキョロキョロと左右に動かし、挙動不審な態度を取った
「誤魔化さないでくれ。イアは、はっきりと女神ディアナが世界のバランスを崩したと話していたが」
「はぁー、そこまで知っているのなら聞かなくて良いじゃない。女神の私を敬愛する信者の望みを聞いて何が悪いの。それに、手駒に勇者がいるアテーナに負けたく無いのよ」、項垂れ肩を落としたディアナは、開き直って全てをぶちまける様に話した。
「自分の庇護する人族を支援するために、違う世界から勇者を呼び寄せた。それだけでなく、勇者の思考を奪いグランベルノ王にコントロールさせている。これじゃあ、どっちが邪神なのか分からないぞ!!」と、クリスは手に持っていた神剣をディアナの方に向けた。
「う、嘘よ。私は、勇者の召喚は許したけど、思考を奪ったりはしないわよ。勇者から思考力を奪い、コントロールしているのは人族が勝手にやっている事で、私はそこまで関与していないわ」
一瞬でディアナの目の前に移動したクリスは、彼女の両頬を摘み、思いっきり引っ張った。
「ダメ、女神! 俺は、怒っているんだ。こんな事して、許されるのかよ」
「ひゅ、ひゅるされます。わたひは、女神でひゅよ」
「女神でも、こんな事をすれば創造神の怒りに触れるだろ」、彼女の頬を摘まむ指に力が入った。
「しょんな、しょうぞうしんには、ばれてないはずでしゅ」
「そんなんだから、ダメ女神なのかもな。俺を通して全て筒抜けだぞ、感覚からすると、かなり怒っているみたいだけど」、クリスは彼女の両頬を解放した。
「うっ、・・・どうしよう」と、頬に赤く指の後が残るディアナは、親指の爪を噛んだ。
「まずは、俺の言う事を聞いてくれないか」
「何をすれば良いのよ」、ふてくされたディアナは、クリスを睨みつけ頬を膨らませた。
「ミツヤの思考を元に戻して欲しい。彼の意思で今後、どうして行くのか自由に決めさせるんだ」
「ええええ、思考を奪ったのは、私じゃないのに」
つべこべ言わずにやれと、クリスはディアナの鼻先を指ではじいた。
「チッ、やりますよ。やれば良いんでしょ」
ディアナは、ミツヤの頭の上に手を置くと歌を歌うように祈る。彼の状態異常は、解消されたのか、瞳の奥に輝きが戻った。
「舌打ちと言い、君は美しい見た目と違い態度が悪いね。あまり面倒なことをするようなら、俺がグランベルノ王国を滅ぼそうか」と、クリスは冗談で言って見せた。
「ひっ、そ、それだけは、お願いだから私の信者を奪わないで」、嘆願するディアナは、クリスの前に跪いて彼の服を引っ張った。
「また、何かあったら呼ぶから。直ぐに出て来るように」
「えっ、どうして人族の言う事を聞かなくちゃ・・・」と、本音を漏らすディアナにクリスは真顔で、「分かったのなら、返事!」と、怒鳴った。
「は、はい。呼ばれたら直ぐに来ます」と、そそくさと彼女は、光の穴の中に逃げ込んだ。
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