第13話 アルフェリア 11
クリスは、どうすれば良いのか考える。ここで勇者達を助けることも出来るが、第四王女の前で魔獣を倒す姿を見せたくない。グランベルノ王国に目を付けられるのは、後々面倒な事になるので御免だと感じた。
「よ、避けてー!」と、魔獣の攻撃を受けたミツヤが飛ばされてきた。
不運にもケンに回復魔法をかけていたリリアにミツヤは、ぶつかってしまった。リリアは、不意に受けた衝突で意識を失ってしまった。
「お、王女に何をする!!」と、木の上から見ていたシルクは飛び降りて来ると、魔獣の方へ走り出した。
「シルク、止めるんだ! 君が勝てる相手では無い」と、クリスは彼女を制止しようとしたが、シルクは足を止めず魔獣に猛進する。
―――グワァァァ・・・バシッ・・・ド、ドッ、ドーン
魔獣の前足から繰り出された攻撃を側面から受けたシルクは、横に吹き飛ばされ全身を木に叩きつけた。
クリスは、シルクの傍に駆け寄り彼女を抱きかかえた。
「おい、大丈夫か? しっかりしろよ」
「ヒュー、ヒュー・・・、お、王女、王女を守って・・・」
駄目だ、シルクを抱くクリスは腕に伝わる感触から、全身打撲に内臓が破裂していると感じる。このままでは、彼女は死んでしまう。彼女の事は良く知らないが、一緒に夜食を食べた仲だし、印象も悪くなかった。彼女を助けるも助けないも自分次第になるのかと、頭を掻いたクリスはシルクを助けようと決めた。
「回復魔法では、間に合わないな。創造神クルシュトワよ、あなたの創造の力を我に・・・リジェネレーション」
シルクの胸にクリスが手をかざすと、光が彼らを包む。回復とは違い、シルクの傷ついた体の再生が始まった。パキーンと光は大きく弾け、飛び散ると眠る彼女の呼吸音が正常に戻った。
ああ、そうなんだ傷んだ服まで綺麗になった。クリスは、再生の力が彼女の体だけでなく身に付ける服にも影響を及ぼしたことを知った。
「ぎゃぁぁぁぁ・・・」
叫び声にクリスは、振り返る。彼の目に映るのは、魔獣に踏みつけられ身動きできなくなったミツヤの姿と魔獣の横で宙に浮く怪しい人影。
咄嗟にクリスは、魔獣の前に飛び出した。
「お前は、誰だ? 何をしている?」
「何故、名乗らなければならない。これで全て正常に戻る」
「何を言っているのか、分からないが。俺も勇者と一緒に殺すのか?」
「そうだ、お前も彼らの仲間なのであろう」
「正式に言うと、仲間では無いな。俺は、ただの案内人だよ」と、クリスは腰の神剣を鞘からだした。刀身が、何かを感じているのか神々しく光り輝いた。
「・・・何故だ、その剣をどこで手に入れた」
「貰ったんだよ。名乗りもしないお前に殺されるのは嫌だからね、しょうがないから戦うよ」
「ふっ、ははは、面白い。私は、イア。お前達が邪神と恐れる破壊神スルベイグに従事する憎悪の
黒い薄布を何枚も重ねて着るイアは、フードを取りクリスに顔を見せる。黒く肩まで伸びる長い髪と黒装束の男神は、クリスに禍々しい印象を抱かせるが、逆に金色の瞳は神々しさを与えてくる。
「じゃあ教えてもらおうか、憎悪の男神がここで勇者を打つ理由は?」と、神剣を中段で構えた。
「ほう、創造神の加護を受けたお前なら理解できるかも知れない。教えてやろう。慈愛の女神ディアナは、違う世界から勇者を呼び寄せこの世界のバランスを崩した。だから、人族の勇者を排除して世界のバランスを元に戻す」
「世界のバランス? 女神がこのバランスを崩したのか?」
「そうだ。お前達が崇める女神が、存在してはいけない勇者を呼び寄せたのだよ」
「何となく理解できるが、まだ、何もしていない彼を殺すのには賛成できない。元の世界に戻してやるなら話は別だけど」
「元の世界に戻すか。良い考えだな。しかし、それは無理な話し。一度、召喚されると元の世界に戻れる可能性は、限りなく低い」
「だから、始末するか。やっぱり、賛成できない」と、クリスは手にする神剣を振り抜いた。
ギャッと魔獣が叫ぶと、ミツヤを踏みつけていた前足が二本とも切断された。
「止めるんだ、私の邪魔をしても何の得にもならない。この先、勇者がお前の味方になるとも限らないぞ」
「そんな事は、どうでも良いよ。ミツヤが味方になろうが、敵になろうが、それが彼の意思ならそれで良い。今は、何も知らない彼を助けたいだけだ」、飛び上がったクリスは、魔獣の首を切り落とした。
「ふう、創造神と同様に、君は気まぐれ者だな。今回は、見逃してやる。忘れるな、世界のバランスを保つために我々が居ることを」と、いやな言葉を残し彼は、黒い霧に包まれ姿を消した。
憎悪の男神イアは、魔獣を使って人族の勇者ミツヤをこの世界から排除しようとした。イアの話した意味深な内容に、クリスは頭を悩ます。
創造神や女神たちが表なら、人々が邪神と呼ぶ彼らはこの世界の裏を表す存在になる。この世界のバランスを保つために、彼らは表裏一体となっているのか。
それぞれの種族が良く思わない事を引き起こす彼らは、良くない存在として恐れられる存在だ。
しかし、視野を広げて見ればどうなのだろうか。
それぞれの種族に共通する点は、争いを繰り広げ、自然を壊し害獣として動物を殺し生きている。この世界にとって我々は、本当に必要な存在なのだろうか。もしかしたら我々こそが、世界のバランスを壊す存在ではないのかと、クリスは考えてしまう。
切り落とした魔獣の頭を持つクリスは、意識を取り戻したミツヤ達に四苦八苦しながら経緯を説明をする。状況から魔獣を倒したのは、明らかにクリスだと全員が考えたからだ。
「意識を失ったままミツヤが、魔獣を倒したんだよ」
苦し紛れの説明だが、勇者なら出来ると思わせようとした。
「本当ですか?」と、リリアが怪訝そうな顔でクリスを見た。
「信じてくれよ、誰も見ていないけど。ほら、魔獣も倒されていて、みんな無事だろ」
「まさか、本当はクリスさんが倒したのでは?」と、ミツヤが呟いた。
「俺は、ブロンズの三ツ星。魔獣なんて倒せる訳ないだろ」
「しかし、この状況を見る限りクリスさんを信じるしかありませんね」
「そうだろ、ケンさんの言う通りだよ。後、この魔獣の頭は、貰っても良いかな?」
「もちろんですよ。協力してくれたクリスさんの報酬にしてください」と、ミツヤが答えた。
体力と魔力を消耗した仲間達を労ってミツヤは、もう一晩ここで休んでから町に戻ろうと提案した。
ミツヤ達から離れてテントを張るクリスの所に、身を隠していたシルクが現れた。
「助けてくれて、ありがとう」
「へぇ、どうして? 感謝されるような事は何もしていないよ」
「とぼけないでください。薄れゆく意識の中でクリスさんが、私に手をかざして治癒してく出さったのを見ていました」
「見ていたの? みんなには、内緒だよ」と、クリスは人差し指を彼女の唇に当てた。
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