姉ちゃんがまーくんという彼氏と別れた。

一週間が二週間くらいぐずっていたがある時、また一目惚れをしたらしい。

だが一目惚れした人は難攻不落らしく、中々に苦戦しているらしい。

そんな疲れている姉ちゃんを労おう(?)とどこか行きたいか言ってみたら、こんな答えが帰ってきた。


「じゃあ海。海行きたい」


海水浴場は夏だからかとても混んでいた。

「…ねぇ、人いっぱいじゃん、帰ろうよ」

「えぇー、いいじゃん別にー、泳ごう?」

そう言って浮き輪を海に浮かべて、その上に乗る。

俺はというとビーチボール一つだけだ。

「俺も浮き輪欲しい」

「だーめ!これはお姉ちゃんの!」

うふふ、と効果音がつきそうなくらいニンマリする姉。

ちなみに俺は10メートル泳いだら溺れ、姉ちゃんは5メートル泳いだら溺れる。

つまりどちらもカナヅチなもんで、浮き輪は大事な命綱なのだ。

俺は上にのってプカプカ浮かぶ姉に根負けして、仕方ないと今回は譲ることにした。

「ねぇたまくん、あっち行こう!」

「おー」

海に入ると、冷たかった。

「うわっ、冷たい」

「当たり前でしょう?海だもん」

姉ちゃんの浮き輪を押して泳いでいたら、急に男の人に囲まれた。

「おぅ、お嬢ちゃん可愛いね」

「俺たちと一緒に遊ばない?」

ナンパだ。

姉ちゃん狙いだな、顔だけはいいから。

俺が嘆息していると、姉ちゃんは目をキラキラさせて言った。


「一緒にっていつまで?それって私のこと好きになってくれたってこと?」


この姉はほんとにもう…!

苦虫を噛み潰したようになる俺と正反対に、姉ちゃんがにこやかに一人の男の袖を千切れんばかりに握る。


「いいよ、遊ぼう!私好きな人が振り向いてくれないから心中しようかと思ってるの。付き合ってくれる?」


姉ちゃん、それめちゃくちゃ圧かかってるよ。

男達は引きつった笑顔で去っていった。

ほんとに疲れる。

あの人達大丈夫だろうか?

「姉ちゃん」

「ん?なあに?」

「…あんまそういう事言わないでね」

心臓に悪いから。

そう言うと、何が嬉しかったのか満面の笑みでうなずいた。


「うん!あ、でも心中はするかも」

「するなっつってんのこのメンヘラバカ姉貴!」


ぺしっと頭を叩く。

ほんとにこの姉はもうどうしようもないかもしれない。

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