お花見

とある穏やかな春の日。

突然部屋に押し入ってきた姉ちゃんが大声で目を輝かせて言った。


「ねぇ、たまくん!お花見行こう!」


*°.・

お花見会場はとても混んでいた。

そういえばこの時期は桜が満開の時期だと思い出す。

今朝のニュースでも言っていた。

…まさか、今朝のニュースで言っていたからお花見行こうとか言ったのか?あの姉は。

相変わらず行動が突飛というか。

桜が一枚ひらひらと落ちてくる。

「綺麗だねぇ」

姉ちゃんがそう言って笑った。

その手に弁当箱。

「姉ちゃんそれ弁当?」

「うん!作ってきたの!お花見といったらお弁当でしょ?」

「そうかなぁ…姉ちゃん、花より団子だからなぁ…」

「あ、ひどい!私だって桜見るよ!?」

「見るだけじゃん。去年のお花見だってことわざ通り団子食ってたじゃん」

「うっ…それはそうかもだけど…」

「…まぁ、別にいいんだけどね」

それが姉ちゃんだし。

一回り大きな桜の木の下にレジャーシートを広げる。

座ると早速姉ちゃんがお弁当を取り出した。

いやほんとに花より団子だな。

ちょっとは花見ろよ。

「…そういえば姉ちゃん、なんで俺誘ったの?いつもは彼氏と行くよね、こういう年中行事」

「…それがね、まーくん最近連絡くれなくて…やっぱり前ケンカした時に私のこと愛してるって言ったんだから死ぬまで愛してよ!って言ったのがダメだったのかなぁ…」

「間違いなくそれだね、原因」

この姉はほんとにメンヘラだな!?

「だから寂しくて…それで暇そうなたまくん誘ってお花見でもしようかと…」

「いや俺今日暇ではなかったけどね。めちゃくちゃ友達と約束あったけどね」

「えっ…じゃあなに?たまくんまでお姉ちゃんのこと見捨てるの…?」

「そんな事は言ってないね、俺」

「そんな…!じゃあ私はどうやって生きてけばいいの…!?きっとまーくんとも自然消滅だし…うぅ、たまくんまでそんな酷いこと言うの…?」

なんかめんどくさい事言い出した。

うるうると涙目で俺を見る姉ちゃん。

あ、泣き出した。

周りからの視線が痛い。

「落ち着いて姉ちゃん、ほら、涙拭いて」

「ふぇぇ…ぐすぐす…うわぁああぁあん…」

「ほら、卵焼きだよ、あーん」

「うっ…うっ…あーん…」

いや食うのは食うのかよ。

むぐむぐと卵焼きを頬張るメンヘラ姉。

はたからみたら小動物みたいだ。

「まぁ、俺は姉ちゃんには感謝してるよ」

「?」

「最近、家族団欒が出来てなかったから」

昔はお花見もよくしていた。

姉ちゃんといつ兄と三人でこうやってしてたのに。

今、いつ兄は仕事が忙しい。

俺と姉ちゃんだって学校や部活がある。

だからこんな穏やかな時間はほんとに久しぶりなのだ。


「だから、ありがとな、姉ちゃん」


笑って姉ちゃんの方を向くと、姉ちゃんはスマホを見てニヤニヤしていた。

無表情になる俺。

はっとして姉ちゃんが俺に言う。

「ごめんごめん、今まーくんとメールしてた!やっぱり自然消滅は嫌だもんね!で、たまくんなんて?」

…うん、だろうと思ったよ。

さっきからうんともすんとも言わないし。

俺は深く深くため息をついた。

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