038 リザードマン

 海を泳いで迫ってくる数千のリザードマン。


 それの相手をする為、龍斗たちはスイカ割りを中断した。


「麻衣と愛果は避難しろ。お前たちは冒険者じゃない」


「分かった! 行くよ、愛果!」


「龍斗君、無理しないでね」


「俺は合理的な行動しかとらない、安心しろ」


 麻衣と愛果が離れたのを確認すると、龍斗は次の指示を出す。


「仁美、武器はあるか?」


「車にあるんだけど……」


「よし、取ってこい。戦うぞ」


「それが車といっても愛車のほうなんだよね」


 麻衣と愛果が同乗するということで、今日に限ってレンタカーだった。その為、仁美は愛用のレイピアを持ってきていない。


「仕方ない、こいつで戦え」


 龍斗が渡したのはスイカ割り用の木の棒だ。


「ちょっと短いけどどうにかなるかな」


 仁美が軽く素振りする。


「リザードマンはレベル25前後の冒険者が戦う敵だ。今の俺たちなら楽に倒せる。適当なスキルを叩き込めば一撃だろう」


 三人のレベルは高い。龍斗が98で、仁美とポポロは96だ。龍斗と違って特化型ではないが、それでも二人の攻撃力は並の冒険者の比にならない。


「ちょうどいい機会だ。範囲攻撃スキルを習得して雑魚を殲滅するぞ」


「了解!」「はいなのです!」


 三人は直ちに余らせていたスキルポイントを割り振った。


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【名 前】陣川 龍斗

【レベル】98

【攻撃力】99

【防御力】1


【スキル】

①フィールドクリエイト:1

②チャージキャノン:80

③スパイダーウェブ:15

④グラビティプレス:1

⑤スプレッドフェニックス:1

======================


「基本は各個撃破でいくが、カバーできる距離は保つように」


 龍斗は前方を指した。


「行くぞ!」


 三人は同時に走り出す。


 その頃、砂浜では既に戦闘が始まっていた。戦っているのはバカンスに来ていたいくつかの冒険者クランの連中だ。全てのクランを合わせると300人近い数となる。


「クソッ、数が多い! 辛いぜ! 奥多摩の力もここまでか……!」


「大丈夫! 所詮はリザードマンよ! 奥多摩は負けない!」


「見せてやろうぜ、〈奥多摩チャピオンズ〉の実力をよぉ!」


 元気のいい声が聞こえてくる。数で大きく劣っているにもかかわらず、戦況はそれなりに拮抗していた。幸いなことに腕の立つ冒険者が多い。


 冒険者側でも際立っていたのは――やはり龍斗たちだ。


「たまには雑魚の乱獲も悪くないよなぁ」


 龍斗がスキル〈スプレッドフェニックス〉を発動する。


 彼を中心に扇状へ数体の火の鳥が突っ込んでいき、燃えさかる炎の体でリザードマンの頭上を駆け抜ける。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 フェニックスの下にいた全てのリザードマンが焼死した。


「なんだあの男」


「凄まじい威力の〈スプレッドフェニックス〉だぞ」


「どうやらあのスキルを特化しているようだ」


 他所の冒険者たちが龍斗の無双ぶりに感心する。しかし、誰一人として、彼の〈スプレッドフェニックス〉のスキルレベルが1しかないことには気づいていなかった。


「やはり攻撃力が高ければスキルレベルが低くても問題ないな」


 そこら中に火の鳥を放つ龍斗。


「ソニックブレード!」


 仁美は斬撃を飛ばすスキル〈ソニックブレード〉で直線状の敵を切り刻む。


「あの女もすげぇ」


「ていうか美人過ぎだろ」


「水着で戦うお姉さん……たまらん」


 活躍はこの二人に留まらない。


「えーいっ、なのです!」


 ポポロは巨大な炎の球を召喚するスキル〈フレイムボール〉で暴れていた。


 コロコロと転がる炎の球がリザードマンを飲み込んでいく。さながら巨大なボウリングのようだ。


 ポポロもそう思ったみたいで、「ストライクなのですー!」と声を弾ませていた。


「あのPT、三人ともやべぇぞ」


「格が違い過ぎる」


「どうなっているんだ、マジで」


 他の冒険者が愕然としていても関係ない。


 龍斗たちは手当たり次第に倒していき、数分後には全てのリザードマンを駆逐することに成功した。


「あっという間に倒しきった……」


「すげぇ……」


 避難した客や冒険者連中が驚愕のあまり固まっている。


 そこへ、装甲車が数台、凄まじい速度で駆けつけてきた。


 到着するなり、装甲車から武装した連中が飛び出してくる。


 そして、リーダーの男が声高に言った。


「待たせたで! 大阪屈指の治安維持クラン〈ほんまにすごいでセキュリティーズ〉遠路はるばる救援に馳せ参じた! 海の平和は我々が守ったる! あとは我々が引き受けるから安心しぃや!」


 その発言を聞いて、たまたま大阪から遊びに来ていた客の一人が呟いた。


「めっちゃ滑ってるやん」


 ほんまにすごいでセキュリティーズ、またしても間に合わず!

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