034 龍斗無双
後藤が駆け出す直前、龍斗は三人に言おうとしていることがあった。
『レッドゴブリンに挑むのは厳しいからやめておこう』
龍斗の見立てだと、このメンバーでレッドゴブリンと戦うのは危険な気がした。レッドゴブリンは通常のゴブリンに比べて動きが鋭いだけでなく、頭のキレまで増しているからだ。それにフィールドが今のような開けた草むらから木々の中に変わる為、視界の確保が困難になる。
「ちょ、友介! 陣川が待ってって言ってるよ!」
後藤の後を追う麻衣。
「龍斗君、どうしよう」
「仕方ない、俺たちも追いかけよう」
愛果と龍斗も駆け出す。
「愛果、スキルは何が使える? 自分と麻衣に発動している〈盾の防壁〉だけか?」
「あと、〈ホーリーシールド〉も使えるよ」
「任意の場所に光の盾を召喚するスキルか」
〈盾の防壁〉は指定した相手の周囲に半透明の青い盾を召喚するスキルで、〈ホーリーシールド〉は任意の場所に光の盾を召喚するスキルだ。どちらも盾を召喚するスキルだが、使う場面は大きく異なる。
「でも、〈盾の防壁〉ばっかり上げていて、〈ホーリーシールド〉のスキルレベルは2しかないよ」
「それだけあれば十分だ。戦闘になったら〈盾の防壁〉を自分に集中させろ」
「麻衣にかけなくていいの?」
「今のスキルレベルだと盾の数が少ないから、二人に分散させると敵が掻い潜ってきてしまう。さっきゴブリンの奇襲でやられかけたのがその証拠だ。あの時、もしも自分にだけ〈盾の防壁〉かけていたら、俺が何もしなくても大丈夫だった」
「たしかに」
「だから〈盾の防壁〉で自分を徹底的に守り、〈ホーリーシールド〉で仲間をサポートするんだ。麻衣は俺が守るから、愛果は後藤を守ってくれ。あの前のめり具合だと、下手に近づいたらこちらまで攻撃されかねないからな」
「分かった!」
二人が後藤たちに追いつく。
「クソッ、ゴブリンのくせに、ゴブリンのくせに!」
後藤は既に戦闘を始めていた。
彼の周囲には無数の赤いゴブリンがいる。一定の距離をとった状態で半円状に包囲して、遠巻きに石を投げつけて牽制していた。後藤が怯んだら一気に畳みかけるつもりだ。
「友介、なに勝手に突っ込んでんの」
麻衣は隅っこの敵から順に処理しようとする。しかしそれも円滑に進まない。レッドゴブリンが警戒しており、なかなか倒すことができないのだ。そうこうしている間に、麻衣の周囲にもゴブリンが群がり始めていた。
「後藤、麻衣、単独で戦うな! 連携しろ! 互いをカバーするように動くんだ!」
龍斗は麻衣に加勢した。地面の砂を左手で掴み、目の前に振りまく。
ゴブリンの視線が舞った砂に集中する。
その隙に龍斗は距離を詰めて、ゴブリンを斬りつけていく。桁外れの攻撃力によってかすり傷でも一撃で仕留めることができるので、刃を軽く当てることに終始して効率良く蹴散らす。
「すご! 陣川、すんごい!」
興奮する麻衣。
「ええい、また格好つけやがって……」
後藤は舌打ちすると、前方のレッドゴブリンに突っ込んだ。
「ゴッブゴブゴブ」
狙われたゴブリンは嘲笑うように後退する。
「逃がすか!」
さらに突っ込む後藤。
「「ゴブゥ!」」
左右のゴブリンが距離を詰めて後藤に襲い掛かる。
「だからなんで単独でつっこむんだよ!」
思わず怒鳴る龍斗。
「うるさい! ひっこんでろ!」
後藤は苛立ちの感情を剣に込めて振るう。
スカッ。
しかし攻撃は空振りだ。
ゴブリンは後ろに跳んで回避した。
「「ゴブゥウウウウウウウ」」
そこへ左右のゴブリンが飛びかかる。
後藤は目の前の敵に夢中で気づいていない。
「愛果、左を守れ!」
「うん!」
龍斗の指示に従って後藤の左に〈ホーリーシールド〉を発動する愛果。
「麻衣、この武器、借りるぞ。お前はこの短剣で戦え。基本的にはデバフでサポートだ」
「え、ちょっ、陣川!」
龍斗は短剣を麻衣に渡すと、彼女の槍を奪って投げた。
「「「「ゴヴォオオオ!!!!!!!!!」」」」
槍は一直線に飛び、直線状にいた10体のゴブリンを粉々にした。これでゴブリンの数が半分になる。
「ゴブ!?」
残った10体のゴブリンが驚いて固まる中、龍斗は突っ込み、地面に突き刺さった槍を拾う。
「俺は防御力が低いんでな、指一本触れさせてはやらんぞ」
龍斗の攻撃は止まらない。槍を振り回し、残ったゴブリンも蹴散らしていく。連携が崩れたあとのレッドゴブリンは脆くて、あっという間に全滅した。
「龍斗君、凄い……!」
恍惚とした表情で龍斗を見つめる愛果。
「一瞬で終わっちゃったよ……」
麻衣も愕然としている。
しかし――。
「なに余計なことしてんだよ!」
後藤は怒っていた。
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