031 報酬に不満?

 コカトリスクイーンを倒した龍斗たちは、その足でギルドに移動した。そこでクエストの報告と魔石の換金を済ませると、仁美の車がある駐車場へ向かう。


「ブラックライオンに比べてリスクが高くなったというのに、報酬は大して増えてないなぁ」


「そう? 100万から130万に増えたんだから3割増しよ」


「リスクを考えたら500万くらいは欲しい。俺たちは3人なわけだし、雑魚狩りと違って死と隣あわせの中で戦っているんだからさ」


「それを言っちゃおしまいでしょ。リスクを考えたら冒険者はどうやっても割に合わないもの」


 不満を垂れる龍斗とそれを宥める仁美。


「原因はポポロたちにあるのです」


 ポポロが申し訳なさそうな顔をする。


「コカトリスクイーンのクエスト報酬並びに魔石の換金額はブラックライオンより遥かに高いのです。ですが、仁美とポポロが担当する雑魚敵から得られるお金は、ブラックライオンの時に比べてすごくすごく減っているのです」


「そうなのか」


 ポポロに言われるまで龍斗は気づいていなかった。彼にとって最優先すべきことはレベル上げであって、お金は副次的なものでしかない。自らの理論に従ってレベルを上げていけば自然と億万長者になる。そう考えているから、細かいことはいちいち気にしていなかった。


「つまり私たちの寄生度が高くなったと言いたいわけだね、龍斗は」


 仁美はニヤニヤしながら龍斗を見つめる。


「そういうつもりじゃなかったけど、結果的にそうなってしまったな」


 龍斗は二人に「すまん」と謝った。


「冗談で言っただけなんだから謝らなくていいってば。ま、寄生させてもらっているのは事実なんだけど」


 駐車場に到着した。


「じゃ、俺は駅に向かうからこれで。念の為に確認しておくけど明日は休みでいいんだよな?」


 龍斗の視線がポポロに向く。


「ごめんなさいなのです」


「仕方ないさ。試験の日を変更することはできない」


 明日、ポポロは入学試験なので参加することができない。前回の試験に合格したので二次試験を受けることになったのだ。人間と同じくエルフの世界も学歴社会で、特に小学校選びは肝心な為、休むことは許されなかった。


「えっ、龍斗、電車に乗るの?」


「今日は実家に帰ろうと思ってな。両親から『新しい狩場になった時は不安だから顔を見せてほしい』と頼まれているんだ」


「なるほどね。なんなら送ろっか? 実家ってあきる野市だよね。ちょうど八王子方面に行こうと思ってたし」


 仁美は嘘を言った。本当は八王子に用事などない。ポポロを送ったあと、龍斗と二人きりになりたかったのだ。


 日を追うごとに、彼女の龍斗に対する気持ちは強くなっていた。年の差があり、しかも相手が15歳と分かっていても気になる。その理由について仁美は、龍斗の放つ年齢にそぐわない大人の雰囲気に惹かれているのだろう、と分析していた。


「ありがたいけど遠慮しておくよ。寄り道するところがあるんだ」


「寄り道?」


「ちょっと武器屋にね」


「「武器屋!?」」


 この発言には仁美だけでなくポポロまで驚いた。


 龍斗は「いやぁ」と頭を掻きながら言った。


「実は明日、中学時代の同級生たちとPTを組むことになってしまってな。武器の相談をされてもいいように下調べをしておこうかと。そんなわけで、固定PTを組んでいる時に別の奴とPTを組むのがよくないことだとは分かっているんだけど、まぁスライムを軽く倒すだけだろうから許してくれ」


 龍斗の発言は、半分以上、二人の耳には入っていなかった。


「あの龍斗が同年代の子らとPT……?」


「信じられないのです……」


 二人の聴力は「同級生たちとPTを組む」を境に失われていた。

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