017 ブルードラゴン

 ブルードラゴンを狩るのに望ましいとされる条件は、100レベル以上の冒険者による数十人規模のPTか、もしくはレベル50以上の冒険者による数百人規模のPTだ。


 しかし、ただいま挑戦している関西の冒険者たちのレベルは一様に40前後で、数も50人しかいない。ステータスも龍斗のように火力特化ではない為、形勢はかんばしくなかった。


「来るで! ブレスや!」


「回り込んで避けな死ぬで!」


「やばいやつや」


 50人からなる関西クランのメンバーはギリギリの戦闘を繰り広げている。敵の攻撃を辛うじて回避すると、死角にいる人間が攻撃を仕掛けていく。それに反応したドラゴンが体の向きを変えると、今度は新たな死角となった者が攻撃する。そうやってドラゴンに的を絞らせないようにしていた。


「立派なチーム戦術だが……火力が足りなさすぎる」


 龍斗の分析は正しかった。


 ドラゴンに与えるダメージが少なすぎる。仮にドラゴンのHPを500とした場合、関西クランの面々の攻撃によるダメージは基本的に1で、高くても3しかない。しかもブルードラゴンは回復速度が高い為、10のダメージを受けた頃には7ほど回復していた。殆どノーダメージと言える状況だ。


「こうなるとスタミナ切れからの壊滅パターンかな」


 この予想も当たっていた。


「やばいで――ぎゃあああああああ」


 ドラゴンの尻尾に薙ぎ払われて、数人が吹き飛ばされたのだ。


 たったそれだけのことで戦線が崩壊した。トランプピラミッドのように奇跡的なバランスで成り立っていた連携が失われ、浮き足立ち、ドラゴンに蹴散らされていく。もはや攻撃を凌ぐだけでいっぱいいっぱいだ。


「こんな状況でも逃げずに戦闘を継続しているということは、救援の来る目処が立っているのか」


 龍斗が状況の分析を終える。彼の脳内では、既に戦闘に関するシミュレーションが完了していた。


「救援の到着時間は不明だが、このままだと少なくとも何人かは死ぬな。そうはさせないぞ」


 ついに介入を決意する。


「これでもくらえ!」


 近くに置いてあったお茶のペットボトルを投げる龍斗。それはクルクルと回転しながら飛び、ドラゴンの後頭部に命中した。


「グォ?」


 振り返るドラゴン。


「なんや?」


 関西クランの連中も視線を向ける。


「あそこに人おるやん」


「なんやあいつ、ソロか?」


「俺たちを助けてくれたんか?」


 そういった声に対して、龍斗は答えた。


「救援を待っているんだろ!? その間の時間稼ぎに協力する! 俺は東京の冒険者だ!」


「なんやトーキョーモンかいな」


「そんなこと言うてる場合やないやろ」


「せや、戦力になるならなんでもええわ」


 茶色のショートが特徴的な女の冒険者――富田千尋とみたちひろが右手を振る。


「ウチらは大阪の大学生クラン〈浪速バスターズ〉や。東京の人、あんま無理したらあかんよ!」


「分かっているさ」


 龍斗は微笑み、砲門の微調整をする。


「グォオオオオオオオ!」


 ドラゴンが翼を羽ばたかせて龍斗に迫る。


「照準問題なし、距離も完璧……」


 龍斗は小さく「よし」と呟いた。


「俺の攻撃はさっきの奴等とは比較にならないぜ」


 溜めに溜めたキャノン砲から砲弾が発射される。


 それは一直線に飛び、ドラゴンに命中した。


「ギィィィァアアアアアアアアアアアア!」


 ドラゴンは全身をビームに貫かれて粉々になる。


 龍斗が想像していたよりも破壊力が高かった。


「なんやあの威力」


「ブルードラゴンを一撃でやりおったで」


「どないなってんねんあいつ」


 驚愕する浪速バスターズ。


 千尋も信じられないと言った顔で、無意識に「凄すぎやん」と呟いていた。


「一撃ではきついと思ったがそんなことはなかったな」


 ふぅと息を吐く龍斗。


「待たせたで! 大阪屈指の治安維持クラン〈ほんまにすごいでセキュリティーズ〉ただいま参上や! ここまでよく粘ったな浪速バスターズ! あとは我々が引き継がせてもらうから安心しぃや!」


 ようやくおでましの救援。まるで特殊部隊のような格好で、一丁前にシールドを持った大人の冒険者集団だ。ふざけた登場の仕方だが、その実力派折り紙付きである。


 だが、今回は少し遅かった。


「遅いっちゅうねん。アホちゃうか」


 浪速バスターズの誰かがボソッと言った。

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