005 いかがわしいホテル

 冒険者の多くは「クラン」と呼ばれる組織に所属している。


 クランは、学生時代における部活やサークルと考えれば分かりやすいだろう。最強を目指すだとか、ひたすら同じ魔物を狩るだとか、何かしらの共通する目的を持つ者で集まる集団のことだ。


 龍斗に声を掛けた女が所属する〈ラクスルー〉は、数あるクランの中でも所属人数が多い大規模クランだ。活動範囲の広さも特筆すべき点で、北は北海道・南は沖縄まで、日本のあちこちで活動している。


「勧誘かい? ラクスルーのお姉さん」


 龍斗は女の用件がすぐに分かった。


「その通りよ、話が早くて助かるわ。私は麗華」


「あぁ、そう」


「ちょっと、よかったら名乗り返してよ」


「龍斗だ」


「オーケー、龍斗って呼び捨てにしてもいい? 私のことも呼び捨てでいいから」


「もちろん」


「なら龍斗、場所を変えて話さない? ここだと落ち着いて話せないから」


「いいけど、どこで話す?」


「いい場所があるの、ついてきて」


 龍斗はラクスルーに所属する気など毛頭なかったが、そんなことはおくびにも出さず、麗華の話を聞くことにした。もしかしたら後々に役立つ情報を得られるかもしれないからだ。


 また、龍斗は麗華のことを風の噂で聞いており、それを確認したかった。


 ◇


「ここでどうかな?」


 麗華がやってきたのはホテルだった。入口の前にある大きなピンクの立て看板には、料金プランがいくつも記載してある。そして、その下には大きく「18歳未満の入店はお断り」と書いていた。いかがわしい場所だ。


「俺、15なんだけど」


「それは見え見えの18歳未満――例えば学生服を着ているとアウトって意味だから。私服の15歳なら実質セーフだから安心して」


 麗華の言葉の意味がよく分からないが、とにかく問題ないとのことだ。


「ならいいけど」


 龍斗は心臓をバクバクさせながらも無表情を装う。


 もちろん麗華は、龍斗が興奮していることに気づいていた。だから、この調子なら軽く落とせそうだな、と思っている。


「行こっか。一応、恋人ぽくしておかないとね。ここはカップルが来る場所だから」


 自身の両腕を龍斗の右腕に絡める麗華。


(やべぇ……色仕掛けの噂はマジなんだ……)


 ラクスルーの美人お姉さん麗華はクランのスカウト担当で、数多の男を色仕掛けで落としてはクランに入れている――そんな噂がまことしやかに囁かれていたが、嘘ではなかったのだ。


「205号室は……あったあった、この部屋ね」


 麗華に引っ張られる形で、龍斗は部屋に到着した。


 人生初となるいかがわしいホテルの寝室は、クイーンサイズのベッドがポツンと佇んでいるだけだった。すごく狭くて、ベッドだけで面積の8割を占めている。薄暗い空間をピンクのライトがほのかに周囲を照らしていて、そこにいるだけでムラムラしそうだ。


「それじゃ、話そっか」


 麗華はベッドサイドに座ると、龍斗の右手を強く引いた。


「おわっ」


 龍斗の顔面が麗華の胸に激突する。


「ご、ごめん」


「ふふ、気にしないで」


 龍斗は耳を真っ赤にしながら麗華の隣に座る。


(今までこういうことに興味を示したことは無かったが、俺も男だしな……)


 交渉次第ではもしかしたらもしかするかもしれない、そんな風に龍斗は考えていた。

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