004 ラクスルーのお姉さん

 ベビードラゴンジュニアの適性レベルは35前後。それをレベル20の人間がソロで一網打尽にしたともなれば、レベルが急激に上昇するのも無理はない。


「一気に40くらいまで上がるかと思ったが……こんなものか」


 だから龍斗は驚かなかったし、喜ぶこともなかった。


「ま、レベルが上がったからステータスを強化しないとな」


 龍斗は落とし穴の中に転がっている魔石を回収しながら、念じることでステータスを強化する。


 魔物は死ぬと魔石になり、魔石は換金することが可能だ。クエストを受けずとも、魔石を売るだけで生活することができる。


「こんなものか」


 魔石の回収とステータスの強化が同時に終わった。


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【名 前】陣川 龍斗

【レベル】34

【攻撃力】35

【防御力】1


【スキル】

①フィールドクリエイト:1

②チャージキャノン:33

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 やはり防御力を上げることはなく、スキルも〈チャージキャノン〉を特化している。


「明日以降もこの調子で頑張らないとな」


 魔物はしばらくすると復活する。その仕組みは分かっておらず、中には異世界から召喚されているに違いないと言う者もいた。


 この調子なら目標の50レベルはすぐだな、と思いつつ龍斗は帰路に就いた。


 ◇


「えっ? ベビードラゴンジュニアを討伐したんですか? しかも1体や2体じゃなくて全滅させたんですか? ソロで? 本当ですか?」


 龍斗の報告を受けたギルドの受付嬢は半信半疑……というか無信全疑といった様子で、欠片ほども信じていなかった。


「これが証拠さ。ついでに換金もよろしく頼むよ」


 龍斗が積み上げた魔石の山を見て、彼が嘘を言っていないことが証明された。それに、受付嬢がギルドのPCにインストールされている特殊なソフトで確認したところ、たしかに彼は数十体のベビードラゴンジュニアをソロで討伐していた。


「信じられない……」


「これが俺の超速レベリング理論さ」


「こ、こちらが、報酬になります……」


 受付嬢は顔を青白くしながら報酬の金を渡す。ベビードラゴンジュニアの報酬は1体につき1万円なので、龍斗は今日だけで数十万円を稼いだ。


「これが働く喜びってやつか」


 龍斗はニヤけながら札束を\しまう。それからくるりと体を翻し、ギルドの扉に目を向ける。視界には無数のテーブル席が広がっていた。それらは木製で、大半の席に冒険者が座っている。


(ゲームと現実はまるで違うな)


 もしもこの世界がゲームなら、大半の人間は会話チヤツトよりも狩りに精を出していたはずだ。仮に会話を楽しむとしても、それは戦闘の最中に行っていただろう。


 しかし現実だと、まともに狩りをしている人間の方が少ない。日に2~3万稼いだら狩りを終了し、残りはだらだらと過ごしているのだ。


 冒険者は中卒以上の学歴があれば誰でもなることが可能で、なるための試験なども存在していない。つまり、“職に就けない底辺がなる仕事”として認識されているのだ。


 そんな仕事だから、狩りに精を出す者はそれほど多くなかった。


「そこの君、ちょっと待って」


 ギルドから出ようとする龍斗に、若いお姉さんが声を掛けた。彼女の装備している青色に塗装された革の胸当てを見て、龍斗は相手の素性を把握する。


 大手クラン〈ラクスルー〉に所属する冒険者だ。

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