03 六月四日零時.

「出張です。一週間。東京の離島でバカンスしてきます」


「心臓止まるかと思った」


「どうしたの?」


「不安。よく分からない不安が。すごかった」


「普通じゃなかったかな。僕の出張」


「私も行く」


「普通じゃない発言しましたねあなた」


「行く」


「六月三日。出張に行くと伝えたところ、あなたが泣きながら一緒に行くと言い出す」


「ひぐっ。ううう」


「普通じゃないご様子。不安におしつぶされそう、らしい。僕の存在があなたにとっての普通になっていたことに、とてもよろこびを感じる」


「行かないで」


「条件を出すことにした」


「条件?」


「あ、日付変わっちゃった。今日のところ、まだ何も書いてないんだけど、僕書いていいかな」


「だめっ」


「うわっ」


「ノートに書いちゃ。だめっ」


「六月四日の最初の書き出しは、ノートを奪われた、にしようかな」


「おねがい。行かないで。わたしも。私も一緒に」


「条件を出そう」


「条件」


「僕と一緒にいる条件。出張だけじゃなくて、一生。一緒にいて、くれますか」


「う」


「普通の生活を、普通に、僕と続けて、くれますか?」


「ううう」


「さて。条件は提示しました。回答はいかに」


「うわああっ」


「お、今日の日記にはなんて書くのかな?」

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