予告 第2章 〈影〉と裏切りと破滅の太陽
万能粒子テイル。
想像を現実にする万能粒子が存在し、その存在によって生誕した〈人〉という種族が人間を支配、管理する世界。
倭も例外ではなく、倭は〈人〉の中でも最も力をもつ12の家が列島の各地を支配し、人間差別、共存、実力主義等、それぞれの理念と大義を掲げ、他の家と戦いを繰り広げては領地の拡大を目論む。
その光景は遥か古代、数多くの武将たちが覇をかけて争った古期戦国時代を想起させ、人々は今の、争い堪えぬ弱肉強食の時代を第2次戦国時代と呼んでいた。
この世界の理不尽な差別をなくし、実力のある者、功績をあげた者は生まれや立場に関係なく優遇され、誰にもそのチャンスを等しく与える社会の実現を理念とする、倭の中部地方南部を支配する12家のうちの1つ、
その家の一員となり、実績をあげられるだけの立場となることを目指す少年。
師匠、天城正人の近衛を務める2人、
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「ぐああ! このクソばばぁ……!」
「まだまだだねぇ。昇。……いつまで寝てんだい。男ならしゃんとしな!」
「まて殴るな……ぐほぁ」
「大口叩く男なら情けない声出すんじゃないよ!」
「くそ、150歳でなんであんな元気なんだ……」
「あたしゃ永遠の16歳と言ったろ馬鹿者」
「うわぁ、もうやめろ。こっちくんな、体罰反対!」
昇をぶっ飛ばしているのは、天樹トメ。御年150歳にして現役の近衛騎士筆頭を務める豪傑。肉体派を示す鋼のマッチョボディという信じられない体をしている。
昇と季里の面倒を見る師匠でもある。
師匠はもう1人。今休憩を挟んでいる季里と共に、昇が吹っ飛ばされているところをみて爆笑している眼鏡男。天樹俊人である。
「うわぁ……おばあちゃん。厳しい。私にもアレくらいでいいのに」
「祖母は可愛い子が大好きだからな。おまえにひどいことはできないんだろう。逆にうちは男が多いからな。うちの屈強な男はあのばあちゃんのスパルタ教育で育ってきた。アイツも同様に、なら、気の毒だな」
「そんなに?」
「ああ」
仰向けに倒れて、そこから動かないままだった、季里がすぐに様子を見に行こうとするが、その前ににっこりとした笑みでトメは季里に寄っていく。
「きりちゃん。そんな不安そうな顔をしなくてもいいんだよ? そんな曇り顔じゃ凛々しくて可愛いお顔がもったいないよ」
そして倒れている昇の方を振り返って叫ぶ。
「季里ちゃんが心配してるだろ! そんなところでいつまでもくたばってんじゃない! 男ならしゃんとしな! 女の子を心配させるんじゃないよ!」
「無茶言うな……」
立ち上がれなさそうな昇に、季里は走り寄っていく。
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友が待つ京都の地へと行くために、師匠と本家に、それに足る力を示さなければならない。この世界で自由に生きていくためには、どんな理不尽にも負けない強さが必要だと、最初の戦いで学んだ昇と季里は修練を積んだ。
――そして、解放戦争から3か月後。
師匠の許可をもらった2人はいよいよ、天城家の正式な戦闘員となるための試練を受けることになる。
試練の場は戦闘員合同訓練武闘大会。
昇と同じタイミングで戦闘員となった新人たちが、天城家領各地から集められ、その武を競い合う。
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「天江昇とか言ったか?」
「そうだけど」
「……本当に人間なんだな。くくく」
「なんで笑うんだよ」
「死にたくないなら、辞退しておけ? 俺は人間さんを生かしてあげるほど器用な真似はできないんだぁ。君たちひ弱だからねぇ」
訓練場のロビーで昇ともう1人の男がにらみ合う。
「てめえも口だけじゃねえよな?」
「くふふ、もちろん、君とは違う」
「まだ俺もお前に戦うところ見せてねえけど?」
「君に天城家の戦闘員は荷が重すぎる。だから、こうして僕が、優しく諭してあげてるんじゃないか?」
「……決めた。お前、当たったらぶっ飛ばす」
「あーあ。命を丸投げする必要ないと思うだけどなぁ。これだから、人間は馬鹿で手に負えない」
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しかし、そこに敵は迫っていた。
それは、昇と季里の親友である太刀川明奈がずっと追っている敵。
世界を変革するため、光の裏で暗躍する〈影〉。
彼らの、倭の征服が、本格的に始まろうとしていたのだ。
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「あはははは、すごいぃいいこれ凄いぃいいい!」
正気を失った目で季里に襲い掛かるのは、同じ大会出場者だった人間の男。
彼の腕には、かつて真紀がつけていた、人間を〈人〉に帰る腕輪があった。
「……適合する人間としない人間。しない方は発狂するわけか」
季里は剣を出して、憐れみの目を向けながら、
「申し訳ないけれど、これ以上、お前が誰かを殺すのを放っておくわけにはいかない。ここで、終わりに」
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そして昇たちにも〈影〉の脅威が迫る。
戦闘員としての力を競い、己が実力を示す大会の裏、昇や新人たちを脅かす〈影〉との戦いに、昇と季里は巻き込まれていく。
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「明奈……? 彼女はまだ生きていると」
「そうだ。てめえらを殺すために、一人で必死に戦ってる」
「そうか。生きててよかったよ。心配してたんだ」
「はぁ……?」
昇の怒りが最高まで上り詰める。
「てめえらが……、アイツをあんなに追い詰めてんだろうが!」
「君が……、彼女の何を知ってるという」
「知ってるとも。俺は、アイツの友達だからな」
「友達……?」
腕輪をつけた影の少年は言う。
「彼女に言えば僕が誰か思いつくはずだ。僕もまた、かつては彼女の友人だった。君よりは知っているとも」
「冗談抜かしてんじゃねえぞ」
拳に怒りの具現ともいえる炎を宿し〈影〉の少年へ突撃する。
「皆を傷つけて、季里を襲って、挙句、アイツを殺した。お前ら〈影〉を俺は絶対に許さねぇ!」
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天江昇。
彼もまた、倭を大きく変える運命の戦いへと、巻き込まれようとしていた。
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