第74話 エピローグ1 希望
「これより地下道へと向かう! 皆、はぐれずに、先導する井天と前を行く人間についていけ! 行くぞ!」
しばらく経ち、東堂の声に従い、人間たちは移動を開始した。
その中で東堂と夢原、吉里、そしてレオンと数人のアジトメンバー。そして昇と彼に肩を貸している友達2人、季里と明奈はその場に残る。
そこで横になっている壮志郎と内也を囲んでいる。
「……壮志郎……」
「やばい……眠い。時間がもうないかも」
「ね、君まで私を置いてかないで」
「そのつもりはなかったんすけどね……。すんません。……格好悪いっすね」
「そんなことない。本当にヒーローだったよ」
「へへ……嬉しいな……!」
2人の保有テイル粒子はもう0に近い。今も減少を続けていずれは0になるだろう。
このままいけば、きっと2人の意識は永遠に闇に葬られることになるだろう。そして体は生きていても、二度と目覚めることはない。
実質的な死亡と同じ。医療に携わる者は、基本的にそうなった人間の治療は諦めている。
この場に居る全ての者を生かした英雄だけ、無事に帰還することを許されない現実に、昇も、林太郎も如月も、季里も、決して心穏やかにその結末を迎えることはできない。
「まあ、そう、暗い顔すんなよ……」
壮志郎が昇に語り掛けた。
「だって、あんたが死ぬとか、違うだろ」
「俺は、お前を信じた。お前は、それに応えた。お前は、いいヤツだ。会えてよかった」
「そんなこと言うなよ!」
「何、辛気臭い顔してる。お前は勝ったんだから、胸を張れ! 良い顔で、外へ行け」
もうすぐ目を閉じる英雄は、それでも笑っていた。
「戦いに犠牲はつきものだ。それが今回は、俺と内也だったって話だ。俺達はお前らが良い顔で行くことを、望んでる」
「……ありがとな」
「ああ。……そうだ、壮志郎の友達の2人」
壮志郎は次に、林太郎と如月に言った。
「反逆軍に憧れてるって、言ってたな」
「え、はい……」
「俺らの代わりに夢原隊に入ってほしい。まあ、……すぐにとはいかないだろうけど。でも、隊長、ああ見えて、寂しがりやだから。隊長……どうでしょう?」
「……壮志郎。ありがと。最後まで」
「へへ……」
嬉しそうに壮志郎は微笑む。目の前の隊長に最後に褒められ、嬉しかったのだ。
しかし、その声に元気がなくなってくる。
「あと、ちょっと……。う……後はまとめて、みんな、楽しかった……あ……とう……お」
口が動かなくなった。
その後すぐ、目を閉じて、もう二度と開かなかった。テイルが0になってしまったことを示していた。
東堂がその場で刀を鞘から抜く。
「何を……!」
夢原が、壮志郎と内也を庇うように立ちはだかった。
「もう二度と目覚めないのならば、転生を願い、早く送り出してやったほうがいい」
「やめて」
「夢原。こいつらを連れて帰るのか? もう何もできない人形と同じだ。いるだけ、お前の負担になる。こいつらも望まないことだろう」
「でも、まだ死んでない! お願い。ちゃんと面倒は見るから。心の整理はつけるから。今は、もうやめて……!」
「夢原。心の整理というのは、雑念がある状態ではできない。罪は俺が背負ってやる。俺を恨んでも構わん。だが、俺は、お前がもう、お前が何かを背負って発狂することだけは避けたい。なら、覚悟ができそうな今のうちに、諦めさせてやる」
険悪な雰囲気となってしまった2人。吉里も今回ばかりはどちらの言い分も理解できるため、どちらに味方をするべきか決めかねる。
全員が恐ろしいムードを感じている中で、1人、その2人の間に割って入った人間がいた。
「少しお待ちを。私の話を聞いてください」
明奈が、懐から、話に必要だったのか、まだ使われていない腕輪を出す。
「私がそもそも、この地に流れ着いたのも、〈影〉を追ってきたからです。反逆軍や……季里なら、少しは知っていると思う」
昇は、季里に言葉にせず目線で、それが本当かを訪ねる。
「人間を〈人〉に変えるオーバーテクノロジーじみた腕輪、それを生産して利用しているテロ集団のことね。各地で人間の子供をさらっては、〈人〉に変えて自分達の先兵としている」
「マジなテロ集団だな。本当に」
そこで昇は今まで何故聞かなかったのか不思議に思った。明奈が何もなのかについて。
「明奈、お前、もしかしてどこかの」
「馬鹿言うな。私はフリーの傭兵だ。1人で〈影〉を追っている。それは嘘じゃない」
「でも、相手は集団だぞ。1人でどうにかなるような」
「お前が気に留めることじゃない。話を戻すぞ。その中で私は、この腕輪の情報集めや研究をずっと行ってきた。この腕輪から人間を解放する手段を探してきた」
明奈は、デバイスを使い、この場の全ての人間を前に自分の中にある、ある映像の記憶を再び想起して、彼らに見せる。
目を閉ざしている子供に、まだ少女っぽさが残る18歳前後の女性がゆっくりと腕輪を装着する。
その腕輪は白銀に輝き、今まで起きる様子がなかった人間の子が睡眠から覚醒するかのように目をゆっくりとあけた。
明奈がこの映像の状況を説明する。
「この子供はテイルが0になり、植物状態だった。それをこの女が腕輪をつけて覚醒させることができた。腕輪には、テイルが0になった状態から人間を回復させる可能性がある」
そして間髪いれずに次を続ける。
「ただし、他の家がそれを真似して、テイルを失った人間に〈影〉から奪った腕輪で覚醒実験を行ったところ、成功例は一度もない」
「つまり、腕輪だけでは要素が足りないと?」
「それが具体的に何かは分からない。それはきっと〈影〉に迫ることができれば分かって来るはずだ」
「なるほど……」
各地で人間の誘拐や暴動を起こしているこの連中のことは、反逆軍も〈人〉も敵視している。
本来倭は12の徳位の〈人〉の家が覇を争う第二次戦国時代であるはずが、人間と〈人〉に加えどちらにもつかない第3勢力として脅威となりつつある。
いずれ反逆軍も〈影〉と戦う時が訪れる。その可能性は十分高い。
「〈影〉を追い詰めることができれば、きっと刈谷さんも西さんも元に戻すことができます。彼らを殺さない理由になりませんか?」
「……どうしてその情報を我々に公開した。俺と夢原の争いを止める義理は君にはない。もしかすると、値千金の情報かもしれないぞ。売ることだってできたはずだ」
「お世話になりましたから。そのお礼です。私も、ここで険悪には終わりたくない。私には、夢原さんの気持ちが分かってしまうので……そのままにはしておけませんでした」
「そうか。感謝する」
東堂は刃を鞘に戻した。
「なら俺に、介錯をする理由はなくなった。壮志郎を背負っていいか?」
「御免なさい。ウチも――我が儘だってことは分かってるの」
「気にするな。お前の言いたいことは十分わかるつもりだ。俺達は、同世代の数少ない生き残りだからな」
「お願いね……」
東堂は脱力しきっている壮志郎を背負いそのままその場を後にする。内也は吉里が背負い、夢原は明奈に、
「ありがとう」
「いえ。お気になさらず」
「ううん。後でしっかりお礼させてね」
と感謝を述べて、そのまま地下道の方へと歩き始める。
――その前に。
「ねえ、あなたたち、名前は?」
この場で名前を訊かれるべきは、もう如月と林太郎しかいない。
「え……私は如月といいます。隣の男が林太郎です」
「馬鹿、こういう時はフルネームだろ、如月」
夢原は2人に近づき、そして尋ねた。
「あなたたち、反逆軍に入りたい?」
「はい! その、今の戦いを見て改めてその気持ちは強くなりました! あんなヒーローになりたいです」
「そう……か。なれるよ。その覚悟があれば」
夢原は2人の手を握る。
「地下道までいろいろと聞かせてほしいわ。壮志郎の代わりに、新しい弟子のこと、よく聞いておかないとね」
その言葉はすなわち、壮志郎の残した、意志を夢原が肯定的に受け取った証だった。
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