第55話 開戦
深夜1時30分。
「来たな」
昇は最後の到着だった。彼を出迎えたのは来人だった。
「あれ、なんでここに」
「作戦の最終チェックだよ。なに、お前のやることは変わらない。発電所に突撃して、ぶっ壊して来い」
「ああ。来人は戻るのか?」
「ああ。アジトを盛大にぶっ壊しながら〈天使兵〉どもとやりあうさ。だけど数が数だ。面白い戦いになりそうだ」
「気をつけろよ」
「それはこっちの台詞だ。全部終わったら俺に連絡をよこせよ」
「なんで」
「それはまあ、一応やれたかどうかを知りたいからな」
「分かった」
来人は昇を待っていたっようで、そのままアジトの方へと向かって行った。
そして昇は多くの避難者をかきわけ、先頭で戦う皆の元へ。
「お、昇。準備はいいか?」
壮志郎の問いに自信をもって頷く。そして自分と共に進む、明奈と季里も元気であることを確認して、武器だけ先にテイルでの展開を済ませる。
反逆軍と非戦闘員がチャージした〈電池〉を、重さで動きが鈍くならない限界数である2個受け取り、合計4000ほどのテイルを使える状態になる。
「さあ、勝負だ。必ず生きて、明日を掴むぞ。みんな」
東堂、吉里、夢原を先頭に、大橋の下まで移動を開始した。
皆、緊張半分、興奮半分。闘志で漲っていて余計な話はしていない。アジトメンバーもレオンを筆頭とする戦闘部隊は初めての実戦とも呼べる戦いに緊張を隠せないでいる。
対して昇は、楽しみで仕方がなかった。
ようやく。
少し前までは遥か先だと思っていた反逆の瞬間が、目の前にやってきていたのだから。
歩家管轄発電所にて。
〈発電所〉という建物が、その名のとおり、人間からテイルを搾取している本来の役割を果たしているのは1階から下だった。
広大にとった土地のほとんどを建物で埋めているのはそれだけ多くの人間を収容できるように、ということ。
2階より上は発電所というよりは、繁華街と発電所の守衛を行う軍の待機所であり指揮所として機能している。
その3階。
大会議室に、守衛兵と幹部が集まっていた。
そこに本家の人間として、歩庄が現れ全員が彼を敬礼で迎えた。
皆を一望できるVIP席に堂々と座り、横に秘書兼婚約者の女を座らせる。
「楽にしていい」
その一言で、部下は一礼の後、全員腰を下ろした。
「さて、人間を捕まえるというくだらない役割のくせに忙しい諸君らを集めてしまったことをまず謝罪する」
「いえいえ。庄様。どうやら敵の中には天城の御曹司と反逆軍守護者がいるというお話。それに幹部5人のうちの1人が殺されたという話も聞きます。幹部筆頭である私、そして椎、そして弦3人を念のため呼んだのは正しい判断かと」
「悪いな、伝。親父の護衛であるお前が来てくれてとりあえず安心した」
歩庄が今回部下を招集したのは、アジトへ総攻撃をするこのタイミングで発電所の警備を堅実にするための命令を下すからだ。
「集まって早々だが、時間がない。今回は俺の権限で命令と言う形にする。現状の確認だ。発電所への攻撃のため守衛兵の半数を向かわせている。つまり普段に比べて発電所を守る敵の数は少ない」
「庄、アジトを攻撃すればそれで終わりだろう? なんでここに強い兵を残すんだ?」
「聞いて驚くな、椎。詳しい場所は分からないが、繁華街のどこかに隠し出口がある。その場合、連中は〈発電所〉への攻撃を試みる可能性がある。ここから3キロ先にある天城家との国境を狙って。そこが一番近いからな」
「嘘だろ? みすみす死にに来るってことじゃねえか。ははははは」
「笑い話だな。だが、それをみすみす見逃してやるわけにはいかない。そこから出てきた人間どもを一網打尽にするチャンスだ」
一呼吸おいて歩家次期当主が指示を出す。
「中の警備は普段通り、俺と直属の部下がやるとして大橋の防衛を、幹部2人、弦と伝に任せる。絶対に連中を逃がすな。反逆軍は見せしめに殺し、戦意を失った避難者500人を一網打尽にする」
幹部2人に向けての命令に、幹部2人はしっかり返事をして確かに受諾ことを表した。
「椎。裏口の防備はお前だ。そうそう、季里が来たらとりあえずは殺さずに迎え入れろよ」
「おっけ。お前は?」
「当然中で指揮をするが――」
少し考えて追加の指示を出した。
「……季里が今どのような状況かを把握する必要があるな。もしも季里が男と一緒に侵入しそうだったらそいつも中に入れていいぞ」
「はぁ?」
「なあに。興が乗った。人間の掃除などという退屈極まりない駆除だ。後れを取ることはあるまい。胸に秘めていた新たな戦術があればそれを試したり、相手に屈辱を与えながら殺すかを考えたり、余裕がある分楽しくやってこい」
「おっけー」
ニヤリと悪い顔になる椎と、特に反応はしないもののそれを了承する幹部諸君。
「レイヴァートはもうすぐ発射される。恐らく連中が来るとしたらその時だ。構えておけよ」
全員がその場を立ち上がり動き出した。
皆がいなくなった頃。
「アジトへの攻撃と言うのは初耳ですね。でも〈天使兵〉は優秀ですね。まさかいままで全く見つけられなかったネズミの巣を見つけるなんて」
秘書が庄に寄りかかりながら赤を少し赤くする。
庄は悪い気分ではないようで、彼女を抱きよせて、
「愛いヤツめ……何か心躍ることがありそうだな?」
彼女の耳元でささやく。
秘書の彼女は庄に向けてにこやかに言った。
「だって、どんな顔をするのか楽しみなんですもの。庄様にとってはただの人間でも、私にとっては因縁がありますから」
「決別の儀か? 俺にも噛ませろよ?」
「もう、そんな興奮しないで……もう」
仲睦まじくしている2人を、この部屋に新たに入ってきた初老の男が評する。
「お前が女に現を抜かすとは意外だったな……?」
「親父……!」
秘書はすぐに立ち上がり一礼。
「構わぬ」
秘書に一言申しつけ、息子である歩庄へと言葉を向けた。
「今回は俺も参加だ」
「なるほど、あいつがいるのは親父が来たからか。だが、あんたの出る幕はないと思うぞ」
「ああ、よほどのことがなければ見学に徹するさ。長らく起こることのなかった人間狩り。たまには近くで楽しみたい。見事上手いことやったら、当主の座を譲るのもやぶさかではないぞ……?」
「まあ、本家からの依頼だからな。やらないという選択肢はない。まあ、せいぜい楽しもうじゃんか。親父もな」
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