第46話 心強い味方
翌日。
部屋で昇を起こしたのは明奈でも季里でもない。
「昇様?」
「……え?」
自分がこの前殴り、失神させてしまった〈天使兵〉だ。
以前と服装は違い、後ろに翼らしきものはなのが、昇はその顔をはっきりと覚えている。
(あ……俺死んだぁ)
いつの間に敵に接近を許していたのか、昇はさっぱり分からない。季里や明奈のことが心配になったがそれももう時すでに遅し、と今の自分の状況を分析する。
「ああ。ここまでか」
自分でも情けなさ過ぎて失笑してしまう最期だ、昇は静かに目を閉じ、覚悟を決める。
「昇!」
季里の声が聞こえ再び目を覚ます。
「季里、無事なのか?」
「何言ってるの?」
「だって目の前に」
「その子、もう私の召喚兵だから。あなたに危害を加えないよ」
昇は再び目の前にいる〈天使兵〉を見る。確かに武装はしていないことを確認。
(それに、俺を殺すなら名前を呼ぶ必要はないか……)
自分の命がとりあえず安全そうだと分かったところで、頭の回転を開始したとき、
「え……どうやったんだよ……」
〈天使兵〉を味方にするという荒業を成し遂げた、恐らく明奈の仕業だろうその行為に震える。
(マジでなんでもできるな、明奈は……)
完璧超人を目指している訳ではない昇だが、それでも明奈の有能具合を感じるたび、世の中には同い年くらいですごいやつはいくらでもいるのだ、と実感する。
他人を素直に誉め負けじと頑張ろうと思えるのは、昇の良さの1つであることに違いはない。
とりあえず不安そうに見守る〈天使兵〉の前でゆっくりと起き上がる。彼女が差し出したホットミルクを一口。
「マスターからの提供です」
「ああ。ありがと……ふう。朝からとんでもない恐怖体験をした……」
昇は今日からとても頑張らなければ行けない数日となる。
そんな朝から恐怖でビビらせられるのは季里に悪気はないとはいえ、昇にとってはあまり快くない朝となっただろう。
季里の隣で笑いがこらえ切れていない明奈の様子を確認して、これが明奈が季里に指示した悪だくみであることがよくわかる。
季里は〈
反逆軍の
「昇、今日はどうするの?」
まずは朝食をとるべくアジトの食堂に向かうため部屋を出る直前、季里は昇に尋ねた。
「今日は昇どうするの?」
「今日は1日ジオラマシミュレーションにこもって特訓と、作戦会議だな。そうだ、明奈にも手伝ってほしんだけど」
「それは無理だ」
「え?」
「お前の仕事にこれ以上首を突っ込むのはよくない。それに私、今日は季里と1日別の用事を済ませる」
昇は天を見て、なるほど、と納得する。
「分かった。なら仕方ないか」
昇は知る由もないが、天の調整は完璧だ。季里の従者としてしっかりと機能する。
この後、季里と明奈が行うのは、季里の記憶回復処理だ。
準備から処理まで今日1日をかけて行うらしい。人手として天もいるため、左手が動かない明奈の代わりを果たすことができる。
万が一季里が牙をむくときのことを考え、明奈は昇を呼ばないことは決めていた。
反逆軍とアジトリーダーは朝に会議を行っているという話は聞いていた。
昇は呼ばれていない。主な議題は避難計画を、〈天使兵〉の出現によって変更する点について。
天城の御曹司の協力が約束されている今、計画の変更も良い意味で行えるだろう。しかし方針は非難を優先する現行の作戦の立て直しなので、発電所に突撃したい昇が参加できるものではないのは明らかだ。
ジオラマシミュレーションに潜って、発電所の前の大橋へと見学へと来ている。
明奈に言われた通り、大橋での陽動と発電所への突撃。2つへの襲撃を同時に行って、片方からもう片方へ戦力が流れないようにする。大まかな作戦はそれでいい。
「さて……俺は突撃なのは当然だよな。でも、さすがに単身突撃はちょっと……なぁ。季里と明奈に手伝ってもらうとしても、もう少し戦力が欲しいところだ」
昨日寝落ちをするまでに考えておきたい内容はある程度考えておいた。
突撃への危険は自分たちが一気に請け負うとして、大橋での戦闘をどのように行うか、
そして、もしも突撃した自分達が失敗したとき、撤退をどのように行うか。その具体的な方法を考える必要がある。
しかし、大橋前の戦闘については警備兵の陣容がどれほどのものかが分からないとその話を考えることも難しい。
橋の目の前に来てその真実に気が付いてしまった昇は、ため息をつく。
本来は来る前に気が付くべきことだが、残念ながらそこまで頭は回らなかった。
「明奈にどやされるなぁ……」
ははは、と笑った直後、繁華街を再現した後ろの方で爆発が起こる。
明奈が怒り狂ってこちらに攻撃してきたか、と一瞬馬鹿なことも考えなくはなかったが、当然そんなことはない。
繁華街のところで誰かが戦っている。当然ジオラマシミュレーションの中なので敵ということはない。
誰が戦っているのか。それは上の方で稲妻が何度も発生しているのを見て、そしてそれを追うように壮志郎が高速移動をしているのを見て明らかだった。
やや遠くからそちらの方を覗いてみると、反逆軍8人を相手に天城来人が戦っていた。
昨日言っていた、天城来人の実力を試す行為なのだとすぐに理解できる。その中で、昇からすると信じられない光景がそこにあった。
歩庄を圧倒した夢原を含めて、3人の隊長をおよそ30秒で片付けて、壮志郎の得意とする高速移動よりも速いスピードで移動して敵の攻撃を許さず、内也の武器の高性能シールドのフルパワーを一撃で破壊して貫通。
反逆軍の強者たちが完全に劣勢だった。
ジオラマシミュレーションなので、ここで殺されても、自分を再現した人形が破壊されるだけだ。人形はまた作ればここに復帰できる。
「いったんここまでにするか? もう十分だろ?」
「ああ。そうだな……」
バテバテの東堂隊長が終了を宣言する。
「まったく歯が立たなかったな。俺達は3回も復活してるのに、お前に傷一つ与えられない」
「そうか。俺はむしろお前達の実力に驚いたよ。人間たった8人を相手にここまで楽しめるとは思ってなかった」
「くそ、上から目線が腹立たしいな」
「まあ、格上だからな」
天城来人は反逆軍8人を相手取って、全員を3回殺したうえで無傷ということ。昇は自分との実力の差に圧倒される。
(すげえな……)
同時に自分に力を貸してくれるとは心強い味方だと思った。
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