第47話 決戦準備

 突如、遠くに見えていた来人が消えた。


「あり?」


「のぞき見とはつまらないことしてるな? せっかくなら参戦すればよかったのに」


「え?」


 来人が自分の背後に瞬間移動してきたのだ。


「ビビった……」


「お前、ジオラマシミュレーションに来て何してたんだよ」


「ああ、作戦を練ろうかと思ってたんだけど……」


「お、いいな。ならこの後の訓練、お前も付き合え。東堂と刈谷と西、そしてレオンと有志のアジトメンバーが訓練を行う予定なんだ。俺が持ってきた新しいデータを含めてな」


「でも、そんなんやってる暇あるな……?」


「そう言うなよ。天城家が歩家に潜ませているスパイから手に入れた、発電所の外部防衛のデータだぜ?」


「何……? なんでそんなものを……!」


 それは今昇が一番欲しているものだった。


「俺は天才だからな。ここに来てどう転ぶことがあっても損しないように、いろいろな準備をしてきてるんだよ。たとえ歩家と全面戦争になっちゃったとしても対処できるようにね」


 来人は昇をなぜか担ぎ上げる。


「お前にはせいぜい派手に活躍して、俺を楽しませてもらわないといけない。投資はいくらでもしてやるさ」


「おい何を」


「さ、橋の前に行くぞ! 〈抗衝〉用意!」


「アアアアアアア!」


 猛スピードで運搬されることになった。


 瞬間移動の先、大橋の前ではすでに東堂隊長と壮志郎と内也、そしてレオンとそのた有志30人余りが集まっていた。


 有志メンバーは以前の訓練で昇とともに戦ったメンバーが多い。


「来たな」


 壮志郎が、超高速移動にビビっている昇を歓迎する。


「訓練をやるってどんな……?」


 昇が尋ねると、東堂が答える。


「大橋警備の突破の訓練をするためだ」


「へ? でも」


 反逆軍は大橋を使わない道筋を使うという話だったはず。


 そう思っていた昇にとっては反逆軍の3人がこの訓練をする意図を測りかねる。


 その意図を東堂は明らかにする。


「もしもお前が俺達を納得させるような、策を出したからには、俺達はやるつもりだからな。あらかじめ訓練を積んでおく必要はあるだろう?」


「え……」


「俺達は反逆軍だ。夢原も言っていたが、我々の貢献は多くの人間の救済によって報われる。元々自分の命など二の次、人間を救うため英雄となるのが俺達だ。自分で言うのもなんだが」


 壮志郎がうんうんと頷く。


「お前が人間を救おうとしているのに。俺達が最初から怖気づくわけにはいかないだろう?」


 東堂は初めて昇に笑って見せた。


 昇は、反逆軍のその志に素直に感心して、

「なら期待してくださいよ。俺は必ずやりますから」

 と、堂々と宣言した。


 ジオラマシミュレーションのメリットは、致命傷を恐れず実戦ばりの戦いができることなので、訓練はさっそく実戦形式。


 来人が持ってきたデータを反映した大橋の外部の守衛兵。その特徴を来人は簡単に解説する。


「守衛兵の多くは前衛を召喚兵に任せて後衛で援護射撃をする敵が大半を占める。さっき戦った感じ、恐らく問題なく突破できるはずだ。なので問題は2つ。数多くの召喚兵の攻撃を凌ぎ突破する方法、そして、当日守衛兵と共に、誰か近衛レベルの〈人〉がいるかどうかだ」


 2つ目の問題に関しては、良い知らせもある。歩家の中で遠距離攻撃を最も得意とする近衛はすでに明奈が排除している。


「歩庄が大橋を守護していることは考えにくい。居るとしたらおそらく中だ」


「中……か」


 以前手も足も出なかった記憶が、昇の頭によみがえる。しかし、これは昇自身が超えるべき壁だ。昇は気合を入れた。


「昇は中だろう? 大変だな」


 レオンが昇に話しかける。


「そういえば、レオンはなんでここに?」


 反逆軍はともかく、本来アジトの避難民であるレオンがなぜここにいるのか予想はつかない。昇は素直に訊く。


 レオンはしばらく言うかどうか迷う。


「言いたくなければいいんだけど」


「朝の会議を聞く限り、来人さんが居れば何とかなりそうだという話になった。なら、俺がアジトのみんなのことを考える必要はない」


「危険だぞ」


「お前が言うのか昇。前に言ったよな。俺にも奪われた友が居ると。俺も、お前と同じように、間に合ううちに頑張ろうとって思ったんだ。……ヒーローを見て真似したくなる子供みたいな理由だけどな」


「死ぬかもしれないぜ。俺はお勧めしないぞ」


「それもお前が言うのか昇。どのみちアジトを出たらやることは決まってないんだ。なら命を賭けて今を全力でやろうと思ってな」


「それは嬉しいような、俺が責任重大になってしまったから嬉しくないような」


「なあに、こっちが勝手に思っただけだ。気にすることはないさ。頑張ろう、昇」


 昇は味方が増えたような気がして嬉しい反面、

(この後やりたいことか……)

 実は自分も、すべてがうまくいったあとのことを考えていないことに気づき、少しもやっとした気持ちになった。


「さあ、再現データの守衛兵を突破できるよう、早速実戦訓練と行こう」






「終わったぞ」


 季里に対して処置の終了を宣言する。


 目覚めた後、季里が最初に言った一言は。


「……なにか埋めたな。明奈」


 やや強めの口調になった季里からの一言だ。

「申し訳ないがそれは接着剤の役割だ。外せば記憶は消えるぞ」


「そうか。……いや、これを訊くのはやめてくわ」


「どうする? 季里」


「昇のところに行く」





 大橋での戦闘は訓練用のデータでも、攻略は困難を極めた。


 守衛兵の数は500を超えて、その中の100人ほどが〈人〉だ。


 〈天使兵〉が配備されている可能性は無いと東堂も来人も判断している。


 〈天使兵〉は敵を排除することに特化した兵器のため、万が一敵が〈発電所〉の方に見えた場合躊躇なく〈発電所〉へと攻撃を始め、結局損害を出すことになるからだ。


 攻略について、〈人〉が召喚した黒い狼や紫の人型の前衛兵の突撃を壮志郎と内也、東堂隊長の3人で受け持ち、その間レオンたちの持つ反逆軍から支給された突撃銃による特殊追尾弾を用いた上からの射撃によって、相手の兵を削っていくという戦術で対する方針を決めた。


 ――はずだったのだが、問題は多い。


 当然相手もシールドでこちらの攻撃を防御するため、今レオンが連れてきていた30人だけでは攻撃が続かない。


 さらに前衛も3人だと不安定。少なくともあと2人は必要だろうという予測がついた。


 一方昇の方も、〈発電所〉の裏口を攻略して〈発電所〉内部に向かうためのシミュレーションを行う。


 一番小さな橋を渡り裏口から侵入するルート。本来は〈発電所〉の幹部しか知らない秘密の出入り口であるため、出入口付近は幹部が一名が基本的に守っているという情報が、天城の御曹司から与えられた。


 内部への侵入を試みる昇は、幹部を歩庄と仮定して訓練を行った。


 歩庄の代わりに来人が空圧弾とほぼ同じ攻撃で昇の相手をする。


「仮にお前が歩庄に挑むのなら十中八九死ぬだろう。お前が地力で弱いのは事実だ。だけど対策を練れば勝ち目がないわけじゃない」


 来人は歩庄との戦いに必要な戦いの技術を1つ1つ昇に教えていった。


 昇を動けなくした体にかかる圧力は、自分とその周りに圧力を相殺するための力場があることを想像することで相殺できる。


 庄の展開する圧力場は自分の攻撃も墜としてしまうため、相手に効果がないと分かれば場を作り続けるわけではない。ここまで来てようやく戦いが始まる。


 空圧弾は真正面から受けると凄まじい威力だが、自分の攻撃を中心から少し外して当てれば、小さな負荷でその攻撃の軌道を逸らして凌ぐことは可能である。


 ただし、拳や鳥を使っても大量に放たれる空圧弾を凌ぐのは難しい。


 それについては光弾を直接生成、射撃することで手数を間に合わせる方針だ。拳を使って弾くのは最小限にすることになる。


「でも見えないしなぁ」


「……お前〈白視〉は知ってるか?」


「え、知らない……」


「あのな……常識だぞ。〈白視〉はテイルによって生成されたもの、操作されたものがすべて白、それ以外のものがすべて黒の濃淡で描かれるように見えるようになる」


「すべてってことは、あの透明なやつも……!」


「こればかりはいきなり想像するのは難しいからな。〈白視〉のデータをお前のデバイスに入れる。それを使え」


 ありがたい支給品を遠慮なく受け取り、訓練を始めることになった。


 言うは易し行うは難し、といったところで、そもそも昇が射撃武器を本格的に使うのは初めてなので、迫ってくる圧力弾に正確に当てる理想的な動きには程遠い。


 5時間ほどやってようやくすこし形になり始めて来た程度だ。形にするにはあと1週間は必要だろう。


 初日の訓練はこれで終わりになり、今後も反逆軍の3人やレオン達を含めて、訓練を続けていくことを決定。


 訓練の終わりに、天城来人は大橋の下へ、反逆軍とレオンと昇を案内する。


「実は、守衛兵のデータの他にもう1つ、入れたデータがあるんだ」


 大橋の真下、来人がそこを攻撃すると、そこには謎の通路が。


「まさかこれ、アジトに通じているのか?」


「天城家の隠し通路だよ。当時の担当者が設計したらしい。この通路は当然現実にもある。使わない手はない。この通路を使えば、〈発電所〉に一気に攻撃ができるんだからな」


 これがあれば繁華街までの道のりについてのリスクをすべて無視できる。大橋と〈発電所〉の攻略だけ考えればいい、


 ありがたい朗報。


 昇はこれで何とか考えてみようと、訓練から考える時間へと移行する。

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