第33話 誇りと自己満足

 明奈と季里は内也に案内されて、アジトの中を見て回っている。


 この後、明奈と季里は別行動になる。明奈はすぐ近くのデバイス研究室に向かい、季里は引き続き、アジトの案内を受けた後、資料室へと行く予定だ。


 2人とも、今後の方針を昇に決めてもらうための情報集めをする予定である。


「大変だなあんたらも」


「何がですか?」


 内也はその2人の意図を知ってか知らずか、季里に向けて、

「天江昇。とんだ破天荒男だ。付き合わされる側は苦労もあるだろう」

 と、同情の言葉をかける。


 しかし、季里は首を横に振った。


「いえ、私は楽しいですよ」


「そうか。俺は壮志郎によく似てるように見えたから、大変そうだと思ったんだけどな」


「その言いぶりだと、刈谷さんは大変なんです?」


「まあ、イノシシみたいなやつだから。昔から。ああ、反逆軍にいる前からの友達なんだよ。だけど、反逆軍に入った理由がヒーローになるためって男だからな。時に、理解に苦しむな行動や言動をすることがある。付き合う方の身にもなれって」


「仲がいいんですね」


「……まあ、否定はしないでおくよ」


 内也は話を、自分が知りたいことへと戻す。


「あんたらはアイツのサポートだろ。おおかた、このアジトを有効活用しようって算段だな」


 明奈が、

「悪いか?」

 開き直ったかのように言う。


「いいや。禁止されているわけじゃない。脱走以外は、訓練でも何か調べるのでも、遊ぶのも好きにしたらいい」


 眼鏡をクイっとあげた内也はそれに続けてこんなことを呟いた。


「こっちとしては一番気になるのはお前達のことだよ。発電所に突撃したいっていうあのバカに付き合ってるんだろ。脅迫されているのか、催眠術でも受けているのか、洗脳されているのか。まさか素面で手伝っているわけじゃないだろ?」


 明奈は真顔で。

「それがそうでもない」

 内也にとっての衝撃の事実を告白する。


 内也はすぐには信じたくないという合図に数秒歩みを止める。


「気が狂ってる……本当に?」


「はい、本当ですよ」


 季里のゆるぎない純粋な返事。これがとどめとなり、その衝撃の事実を受け入れることになった。


「それは、なおさらなんでそんな無謀を。その原動力はどこから出てくるんだ。それがめっちゃ気になる」


 明奈と季里は顔を向かい合わせる。明奈が季里を見たのは、ここまで当たり前のようについてきているものの、明奈もなぜ季里が協力的なのか、真意を確かめるいい機会だと思ったからだ。


 季里が答えた。


「私は、その、昇を見るのがだんだん好きになってきてるから、かな?」


「は?」


「あんなに真っすぐで、へこたれない人、私、初めて見た気がして。元々私、この先どうすればいいか分からない人間だから、あんな彼が辿る最初から最後を見たいって思ってる」


「ほう?」


「なんだかんだで幸運にもここまで生き延びられているから、きっと、昇は何かを持ってるんだなって予感がしてるんです。だから、だんだん楽しくなってきたって感じ、ですかね?」


 それは明奈も今聞かされるまで知らなかった季里の心情だった。


 反逆軍に捕まった今、場合によっては季里の処遇を改めて考えなければならないと考えていたが、明奈はそれを改め、無理に今の関係を変える必要はないと判断した。


「季里、あなたも変わり者ね」


「ふふふ。あんな死ぬかもしれない目にあったのに、今自分で言っててもそう思う。けど明奈だって」


「私も同類だよ。自己満足のためだ」


 内也はその2人の様子を見て、

「なかなか面白い人間だな」

 呆れつつも、昇と目の前の2人に、さらに興味を持った。





 昇は、先ほどの実験の後、ジオラマシュミレーションの中へと意識を接続した。


 実際は1万分の1の大きさの人形と意識をリンクしているわけだが、そんな感覚はなく目の前に本物の街があるかのように錯覚した。


「すげえ……」


「慣れるまではビビるだろうが、今のお前の体は人形だ。ぶっちゃけ体をみじん切りにされても、痛みは感じないし、死んだ場合は一度意識がお前の元の体に戻る。だからここでは本気で戦い放題なんだよ」


 壮志郎が反逆軍の最先端技術に感動している昇に、自慢するかのように機能を説明する。


「痛みが感じないってのが、本当の戦いとの違いか。まあでも、そもそもテイルでの戦いなんて当たったら終わりだから、それほど致命的な欠陥ってわけじゃないのか」


「分かってんじゃん」


 万能粒子テイルは、無から物を創り出すことはできるが、今存在するものの性質を変更することは原則として不可能である。


 故に体の耐久力の強化はできず、どれほど強い人間でも相手の攻撃に生身で当たれば死ぬ。故に、戦闘では火力よりもまず命中率が最重要視される。


 ジオラマシュミレーションによるトレーニングは、痛みを受けるような事態になれば終わりだという前提があることで、痛みを感じないという欠点は無視していい事項であり、画期的なトレーニングとして反逆軍での訓練や模擬戦によく使われるのだ。


「今回のジオラマは、歩領の繁華街を地図情報をもとに作ったものになってる」


「てことは、これが歩領の繁華街って言っても過言じゃないじゃんかよ。ここが」


「さすがに人まで再現はしていないが、建物は現在のものとほぼ同じになっている。そして発電所に至る橋まで再現済みだ。下の川もあるんだぜ」


「へえ……」


 昇は気が付く。これは自分が戦うために得るべき発電所までの道のりの情報だと。


 思わぬところでの情報との出会いにふとスルーしそうになっていたが、何とか思い出せたことに安堵する。


 デバイスも、今の人形体に合うように問題なく機能しているのを確認して、昇はいよいよ再現された街へと歩き出そうと足を動かした。


 再現体の街の中、現在は繁華街の西を貫くように走っている主幹道に立っているが、そこからさらに西へと向かい、橋の近くで実践訓練を行うことになっている。


 壮志郎曰く、そのエリアが、大小さまざまな建物、広い道や狭い道、など様々な条件が入り組んでいる場所らしい。


「お、やってる」


「やってるって、え?」


 昇が、目を凝らしてよく見ると、そこで何人かが、戦っているのが見える。それは反逆軍の服を着てるわけはないため、恐らくはこのアジトの人間たちだろう。


 よく見ると、その中の1人が、アジトリーダーのリオンであることも分かる。


「あそこで戦ってるのって」


「今は訓練の時間だ。確かに東堂隊の双子が、アジトのぺーぺーを鍛えてんだよ」


「アジトの人を?」


「まあ、いくら俺らがいるとはいえ、全員を守れるわけじゃない。自衛の手段を習得してもらって少しでも俺らの負担を減らしてもらわないとな、乱入しようぜ」


「いやいやいやいや、さすがにそれは邪魔になるだろ」


「気にすんなって。どうせ、反逆軍2人を50人以上で攻撃してるだけだ。今更それぞれ1人増えたところで変わらねえよ。行こうぜー」


 壮志郎に引っ張られ、昇はその訓練の中へと乱入することになった。


 戦場に突如現れた、未想定の乱入者。


 確認のため訓練は一度中止になり、訓練中のメンバーと東堂隊が集められる。


「俺入るわー」


 壮志郎の気まぐれな行動はいつものことなのか、東堂隊長と同じ隊章をつけている2人がため息をつく。


「刈谷くん。入るならあらかじめ連絡頂戴って」


「いいよー、どうせ言うこと聞かないんでしょ、そうしろーは」


 双子というだけあって、その顔はよく似ている。東堂隊の隊員である、井天いそら雲と妹の雨。ほぼ同じショートカットに女性的な顔立ちだが、姉妹に見えて兄と妹と言う組み合わせだ。


「こいつも暇だっていうから入れたいんだけど」


 壮志郎は昇を指さし事情を簡潔に説明する。


 兄の方が、すぐに了承して、

「なら、天江君は向こうのチームだ。刈谷くんはこっち。さすがに2人だと厳しい」


「おっけー」


「訓練再開だ。最初に私たちが散らばるから、それが終わったらまた攻撃再開だ」


 反逆軍の3人は集合した場所から、すごい勢いで離れていく。


 昇は具体的に訓練の内容を理解できていなかったが、それを見かねたアジトリーダーのリオンが昇に話かけてくる。


「せっかくだから組まないか?」


「組む?」


 よく見ると、リオンの隣には、サブリーダーの1人である宝生もいる。さらに、周りには訓練を共にしている初対面のアジトのメンバーもいた。


 昇はとりあえず、初対面のメンバーには挨拶という、先生の教育が行き届いた結果を見せた後、この訓練の説明を受けた。


「簡単だよ。反逆軍の人をどんな手を使っても倒せばいいだけだ」


「マジ、そんな野蛮な」


「まあ、500人を1人1人見るわけにはいかないから、こうして実戦を交えながらアドバイスをもらうって感じかな。昇もせっかくだから、俺らと一緒にやろう」


 リオンの誘いに乗り、1分経過、リオンと宝生、そしてアジトメンバーと一緒に訓練へと挑んだ。

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