第32話 反逆軍の持つ技術

 アジトのトレーニングルームは2種類用意されている。


 1つは全面対テイル用の壁と床でできた、縦100メートル横100メートル、高さ20メートルという内部がかなり広い直方体の部屋のノーマルトレーニングルーム。


 部屋の中には何もなく、ただ本当に広いだけの空間だ。基本的にここでは、武器の性能のテストや、基礎トレーニング等で使われる。


 対してもう1つは反逆軍の最先端技術であり、これに関しては、夢原たちがこのアジトに入ってから実装されたものだ。名を「ジオラマシミュレーション」という。


 テイルによって実在する場所と訓練を行う人間と同じ人形を通常の1万分の1スケールで再現して、再現された自分の人形を操作することで戦闘訓練を行う。


 操作と言ってもコントローラーで動かすわけではなく、専用の機械がその人間の脳から発生する命令を読み取り人形がその本人の動きを、デバイスの使用内容まで再現するのだ。


 今回使うのはノーマルトレーニングルームの方だ。


 昇はとりあえずそこで、先ほど手に入れた黒木兄のデバイスの中身をまず使ってみることにした。壮志郎も興味があるのか、監視ついでに一緒に参加することになった。


 壮志郎は、そもそもかなりの戦闘狂だ。戦闘についての勉強や実験、訓練には積極的に参加するタイプであり、昇の戦い方や、何をするのかにも興味津々だったのは不自然なことだった。


「まずお前が戦ったときに使ってたやつ使ってみれば」


「やっぱり鳥と手持ち砲か。そうだな」


 歩家の〈人〉が使っていた装備とはいえ、別にデバイスの中身に恨みはない。昇は迷いなく鳥を使用してみる。デバイスの中にデータが入っていれば、想像がなくても使うことは可能だ。


 見覚えのある鳥が昇の前に現れ、自分を呼び出した主に鳴いて挨拶をする。使用するテイルはトレーニングルームが基本的に補償するため、昇が持つテイルを失うことはない。


「よし、じゃあ、飛んでみ」


 昇の指示に従い鳥は空中で踊りつつ、何も指示していないのに、壮志郎の方へと突撃を始める。


「あ、おい!」


「心配すんな」


 壮志郎は、夢原隊の標準装備である紫の打刀を出現させると、以前と同じく淡い光を纏っている鳥と激突させた。


「おお、かてえな。思ったより威力もありそうだ」


 壮志郎はそう言うものの、対処不可能というほど苦労はしていない。少し厄介になったころに、光刀の威力を強めて鳥を真っ二つに切り分けた。


「確かに、戦っている最中だとウザいな。近接武器を使う俺には厳しい相手だ」


「そう言った割には楽々そうに斬ってたじゃんか」


「ははは。それはそれ。じゃあ次いこうぜ、その砲撃、これに撃ってみ」


 壮志郎はライトパープルの五角形の光の障壁を作り出す。反逆軍に限らず対テイル用のシールドは総じて透明度が高く、障壁の向こう側の壮志郎の姿もはっきりと見える。


 誘導に従って、実体化させた手持ち砲でそのシールドへと砲撃を放った。


 珍しく別の武器を使って、昇は新鮮さと違和感の2つを抱く。


 砲撃はシールドに直撃。元々遠距離攻撃も扱う昇は狙いをつけるのには問題ない。シールドにはほんの少し亀裂が入っていた。


「マジか。これ反逆軍の一般実働部隊が使うなかで最高のシールドだぞ。これじゃ3発もたないじゃん」


「いや、むしろ耐えられることに驚きなんだが、俺」


「それはこっちの台詞だっての。さっき監視カメラの戦闘記録見たけどよくこんな砲撃受けられたな。武器の質としては、お前が使う炎の拳の方がいいかもな」


 壮志郎はシールドをしまう。昇が次に砲撃を続けてみるか、別のものを試しながら新しい戦術を考えるか迷っているところに声を掛けた。


「お前、発電所狙いだってな」


「悪かったな。夢見がちなガキで」


「別にそんなことはない。仲間を助けたいんだろ。いいことなんじゃないか」


 先ほど思いっきり否定されたばかりなので、同じ反逆軍の壮志郎の返事が、昇には意外なものに思える。


「いいのか、そんなこと言って」


「思想は自由だろ? でも、気になることはある。お前、自分の命が惜しいとは思わないのか? 普通に発電所から逃げてきたなら、もう命を削るようなことはこりごりだと思わないのか」


「それは……お前に言われたくねえよ」


「なんで」


「反逆軍なんて、人間を救うためにずっと命をかける仕事じゃないか」


 壮志郎は自分のことを棚にあげていたことに気づき、なぜか笑った。昇はそれを見て、この壮志郎という男がやや狂っているように見えた。


 しかし、それは誤解だった。


「命がけなのは、まあ毎回怖いよ。まあ、でもこの仕事楽しいからな」


「楽しい?」


「ああ、救った人に感謝されることが楽しい。助けられた人がいるのが嬉しい。俺は昔からヒーローに憧れてた。理想とまんま同じじゃなくても、誰かに感謝されるこの仕事に俺は誇りを持ってる」


「へえ、すげえな」


 それは昇が何も考えず、ただ壮志郎の話を聞いた羨望だった。


 昇は将来のことはまだ何も考えていない。自分が今すべきこととして、仲間を救うという目標のために動いているだけで、それはあくまで自分の欲であり、誇りと言えるほど輝かしいものではない。


 目の前で、何の迷いもなく自分の戦いに誇りを持っていると言った壮志郎は、昇にはとても綺麗なものに映った。


「俺も、お前のこと嫌いじゃないぞ。隊長命令だから認めてやるわけにはいかないけど、友達を救うために胸張って頑張れるお前は、悪い奴じゃないってわかるからな」


 壮志郎は少し考える仕草を見せた後、


「まあ、脱走の手助け以外ならセーフだろ。訓練するってことは歩庄に手も足も出せなかったのが悔しいんだろ。せっかくだし、気が合いそうなお前との訓練、とことん付き合ってやるぜ」


 まさにその通りで、昇は苦笑する。


「まあな」


「なら、いっそ実戦訓練するか。隣のジオラマシミュレーション使って、ちょっと本気で戦ってみようぜ。それなら負傷しても人形ぶっ壊れるだけだし」


「いいのか。仕事とかないのか?」

「反逆軍なら、強くなるのも仕事のうちだって。行こうぜ昇」


 ノリノリで別のトレーニングルームへ向かい始める壮志郎に、昇はいい気分になりながらついて行く。アジトでの監視生活に多少不安を持っていた昇だったが、悪くはなさそうだと評価を上方修正した。

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