第24話 歩家次期当主

 完全な不意打ちだった。


 生き残っていたのはとっさに炎を全身に纏い少しでも防御力を上げていたからだ。


 しかし、それは完全な防御ではない。あくまで気休めだ。


「が……あ……」


 ダメージが積み重なり、今受けたすさまじい圧力を受けて、体が限界を迎え、自由に動かない。


 昇はいったい何があったのか、顔を上げて確認しようとしている。


 攻撃を受けたのはどうやら昇だけのようで、季里は驚きのあまり腰が引けているだけだった。


「生きているのか?」


 新しくこの場に男が現れたのが声でわかる。


「生きていいと誰が決めた? 誰が顔を上げることを許可した、人間!」


 重力が10倍になったのか。そう錯覚するほどに昇は上から圧を受けている。立ち上がれない、顔を上げることさえ許されなかった。


「あ……が……」


 肺がつぶれかけている。気管が狭くなっている。呼吸が満足にできなくなり、昇は徐々に苦しくなってきた。


「俺は不快だ。人間に部下がやられた事実が、そしてそいつが、俺の妹の姿を当たり前のように見ていることが」


 妹。


 その言葉を聞いたとき、昇は今自分が危機を迎えていることを自覚する。


 変装を簡単に見破り、季里を妹と呼称するのは、どう考えてもその兄だけだ。


 ここに来たのは、歩庄。歩家に名を刻む者だ。


「人間風情が牙をむくなど、そのような不敬な考えを持っているだけで虫唾が走る。お前らは嬉々としながら〈人〉に従うことが唯一の存在意義だろうに」


 気に入らない考え方だ。それを堂々と口にしたその男に昇は怒りを覚え立ち上がろうとする。


 しかし、体が動かない。


「季里、何をしている。この男を殺せ」


「え……」


 歩庄は妹である季里に命令をする。それは不自然なことではない。季里が記憶を失っていることをこの男は知らないのだから。


(まずい……)


 庄との出会いで、記憶が戻る可能性を昇は考えたが、


「え、その、やめて……」


 季里の態度を声から確認する限り、その心配はなさそうだった。


 一方、それはそれとしても、昇の危機は何ら変わりはしない。季里は声が震えていた。昇は今の季里がこの状況をどうにかできるとは思えなかった。


「何をしている季里。兄の命令が聞けぬと?」


「あ、ああ……うう……」


「……泣くか。らしくない、厄介なことになっているらしいな。ならば対処はあとにしよう」


 歩庄は一瞬で妹が今正常ではないことを察した。


「不愉快だが、この俺自らが手を下すしかないな」


 昇は、庄が再び攻撃を仕掛けようとしている、と直感する。しかし、そもそも今、自分は動けない。


 さらには自分を這いつくばらせた先ほどの攻撃を思い出すと、どこから攻撃をしてきたのかすら分からない。


 完全に透明な何かに襲われたはずだ。だからこそ、炎を全身に纏ってクッション代わりにするという方法しか取れなかったのだ。


(く……)


 万事休すか。


 あまりにも早すぎる終わり。せっかく歩家への反逆をようやく行動に移せたばかりなのに。


 思えば最初の戦いも今の戦いも、誰かの手助けを得てようやくつかんだ勝利だった。自分の力で勝ったことなどなかった。


 ゆえに、昇は今何よりも、やはり自分の無力が悔しかった。


「ぐぞぁああ!」


 立ち上がろうとする。


 無理だった。気合ではどうにもならない。


「死ね」


 庄が攻撃を仕掛ける。


 昇は終わる。


 ――はずだったのだが、攻撃は昇には届かなかった。


 何者かが、彼を守るように光の盾をテイルで展開していたのだ。


「……俺の攻撃を止めるとは、また不快なことだな。誰だ」


 昇ではない。そして季里も驚きの声をあげていたので違う。


 この場にまた乱入者が現れたのだ。

「こっわー。そうカリカリすんなって、おにーさん」


「……また人間か……! しかもその顔、見覚えがあるぞ」


「まじー? ならウチも結構人気ってことジャン? それはうれしー」


 庄はすでに俺に興味を無くしたように乱入者を見る。自分にかかる圧力も小さくなり、何とか新参の女性らしき声の主を見る。


「反逆軍の守護者とは、実に不快だ。まるでこのクソガキを助けに入ったような。俺を倒せると挑発しているようじゃないか。人間風情が」


 反逆軍。昇はその言葉に聞き覚えがある。


 昇のかつての友が、入りたがっていた、〈人〉に虐げられる人間を救う組織。俗の名を反逆軍。


「ま、否定はナイナイ。だってウチ、反逆軍の守護者だからね。人間で〈人〉を倒すプロフェッショナルだから」


 風船をもっている、金髪の女性。歳は18から24の間に見える。パッと見、チャラチャラしている印象を受ける外見だった。


 しかし地に伏している昇には分かる。その反逆軍の女性は、同じ圧力を受けているにも関わらず普通に立っていることが。


 彼女が只者ではないことが、昇にも十分理解できた。

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