ホラー短編

カチ りょうた

開けるなぁ!


クラスに後藤っていう男子がいる。

そいつは小さくてやけに細いから、皆まるっきり相手にしていなかった。

もしいなくなったとしても、きっと誰も気付かないだろう。

後藤はそんな奴だった。


しかし、ある連休明けにとんでもないことが起こった。

あの後藤が、がっしりとした体格に変わっていたのだ。

性格も幾分か明るくなってる。

「どうしたんだ!?」

「スゲー!!!」

「たいしたことないよ」

後藤の変化に皆驚いたが、日にちが経つにつれてそれは当たり前のことになってしまっていた。

慣れは非常に恐ろしい。




後藤が変わってから一週間が過ぎたある体育の時間のことだった。

俺達はバレーボールをしていた。

「危ない!!!」

たまたま隣で練習していた後藤のボールが、見事俺の頭に命中した。

「大丈夫か?」

「馬鹿だなぁ。なんで避けないんだよ?」

打ち所が悪かったらしく、クラクラしてうまく喋れない。

「ごめん、ごめん」

後藤は俺を軽々背負って、そのまま歩き出す。

まだクラクラしていた俺はただ後藤の背中を見ていた。

だだっ広い後藤の背中が少し羨ましい。

その時、後藤の背中に何か光るものを見つけた。

最初は汗かとも思ったが、よくよく見るとそれは金属だった。

ごつごつした背中に付いている金属。

これは一体何だろう?

「さ、着いたよ」

いつの間にか保健室に着いていた。

後藤は俺を降ろすと、さっさと戻ってしまった。

「・・・何なんだ?あれ」




その日から後藤の背中ばかり見るようになってしまった。

あれが何なのか考えて眠れない日もあるほどに、俺はあの金属が気になっていた。

どうにかして背中を見たい。

どうすればいいんだ?

「うわぁ!?」

そんなことばかり考えていたからか、後藤に給食をぶちまけてしまった。

「悪ぃ!」

「制服が・・・」

これはチャンスだ。

「そのままじゃあ駄目だ。更衣室で着替えよう」

俺は後藤の返事も聞かずに、後藤を連れて教室を飛び出した。


「洗うから脱げよ」

「うん」

ちょうど後藤は俺に背中を向けている。

ワイシャツを脱げば、例の金属が姿を現す。

「これは?」

「前にあるバケツに入れておけよ」

金属は首の付け根から腰まで続いている。

後藤に気付かれないように近付く。

背中を走る金属。

よくよく見ると、それはチャックだと分かった。

後藤の背中にはなんとチャックが付いていたのだ。

それがチャックと分かると、今度は開けたくなってしまった。

開けたい、それを開けてしまいたい。

我慢できずに、チャックに手を伸ばす。

ゆっくり、ゆっくりチャックを開ける。

「・・・あ」

その中には

「開けるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

がりがりにやせ細った後藤が入っていた。

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