HELLO WORLD

時の丘

第1話 俺の死

ありふれた普通の人生。

大学を出てから俺は企業説明会でまんまと騙されたブラック企業に勤めて日々を過ごし、どうせ死ぬなら過労だろうと思いながら日々を過ごしていた。

就職してからは実家から出ていたため現在一人暮らし、妻子無し、彼女もなし。もちろん恋愛経験もない。

俺の息子も日の目を浴びることはなった。

だが俺は一応モてる部類には入ると思っている。


・・・・・身長だってあるし、顔も中の中くらいだよ?

やばい・・・寒くなってきた。それにもう意識がもちそうにない。


事の発端は少し前にさかのぼる――――――






賀上かがみさん!一緒にご飯行きましょ!」


笑顔でこちらに向かってくる可愛らしい女の子。彼女は俺が務めている会社の後輩にして、今ひそかに俺が狙っている詩織しおりちゃんだ。 

詩織ちゃんはよくご飯に誘ってくることが多く、これはもしかしたらあるのではと思わせぶりな態度をする。

だが待て。待つんだ男、賀上荒太かがみあらた。こういうパターンでフラれた経験は数え知れないだろ。ここは慎重に行かなければ後悔するのは目に見えている。

高校時代にひどい振られ方をしてからというもの恋愛シミュレーションゲームで鍛えに鍛えた俺の小手先恋愛テクニックがまだ駄目だっと危険信号を発している。

そんな事を思っているたび何の進展もなく彼女との付き合いは半年を過ぎていた。


「そういえば賀上さんって彼女とかいるんですか。」


おいおい。これって確定なんじゃないのか!

俺も人生勝ち組モード突入か!?

いやいや落ち着け。まだ焦るときではない。気持ちを落ち着かせ『そんなもの居ないよ』と答える。

彼女は俺の言葉を聞くとなぜかうれしそうな顔もちで歩き出した。

おいおい。その反応はもう告白していいってことだよね。はいします。決めました。今します。


「詩織ちゃん。俺さ前から・・・・」


「「「キャーーーーーーーーー」」」」


念のため言っておくがこの悲鳴はもちろん詩織ちゃんからではない。

俺の後ろの方から何人もの悲鳴と混乱の声が聞こえてきた。


「道開けろ!殺すぞ!!!」


俺は慌てて振り返ると手に包丁を持った男がこちらに向かって走ってきていた。

俺はすぐに逃げることができたが、後ろには詩織ちゃんがいる。

そして詩織ちゃんは極度の恐怖から崩れ落ち固まっていた。

詩織ちゃんを置いて逃げることはできないため俺は決死の覚悟で犯人と対峙する。

包丁を持って向かってくる犯人。俺は詩織ちゃんをかばうように立ち、捨て身の覚悟で犯人を止めた。

犯人とぶつかった直後に腹部から今までに経験したことのない激しい痛みが襲ってくる。

犯人はその場から逃げ去り、俺はその場に崩れ落ちた。


「俺刺されたのか。」


詩織ちゃんは無事そうだ。それだけでも俺が刺されてよかったというものだ。

お腹がものすごく痛い、熱い。


「先輩死なないで!先輩!先輩!!!」


詩織ちゃんは俺の名前を大声で叫ぶ。


「やめろよ。本当に詩織ちゃんが俺のこと好きなのかと思って勘違いしちゃうだろ。」


おいおい嘘だろこれ全部俺の血かよ。

地面は自分の血で血だまりができるほどになっていた。

先ほどまでは熱かった体が今度は急激に寒くなる。

今はまだ七月だぞ。季節感無くて笑われちまうよ。

詩織ちゃんそこにいるの、もう目がかすんで見えないや。

意識は朦朧もうろうとし、先ほどまで焼けるような熱さに見舞われた腹部は、今は全身寒気に見舞われていた。





――――――ありふれた普通の人生。

大学を出てから俺は企業説明会でまんまと騙されたブラック企業に勤めて日々を過ごし、どうせ死ぬなら過労だろうと思いながら日々を過ごしていた。

だが現実は通り魔だった。かっこよく好きな女を守って死ぬ男の本望じゃないか。

”ここ笑うとこね”

笑えないけど。


「早く目覚ましなさいよ、ねえ聞こえてる?こっちは忙しいんですけど」


なんだこの声。


「ちょっとあんた聞いてんの?こっちは忙しいの早く起きなさいってば。てかさっさとこっちに来なさいよあんたもう死にかけでしょ?現世に長居は無用よ。早くこっちに来て、あたしはあんたのためにずっと待ってるんですけど。」


ここにきて幻聴聞こえ始めちゃったよ。

俺そんな妄想癖なかったと思うんだけど。


やばい・・・本格的にまずくなってきた


俺本当に死ぬのか。案外あっけないな。

そしてこの世から俺の意識は消えた。

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