第90話 水精霊裁判だ……!
俺はアレックスとニーナを子供部屋のベッドに送り届けて寝かせた後、再び礼拝堂へと戻ってきた。
……うむ、やはりスナフキンみたいな恰好した男が長椅子に座って寝落ちしておる。
見覚えのない顔で、服装や持ち物を見る限り吟遊詩人のようなので、こいつは恐らく他の街から来たのだろうと推測する。
正直言って怪しい男だが、しかし仮に
それにこの男からはほんの僅かだが、うちの信者達と同じように俺に対して信仰心を向けている気配を感じる為、無下に扱うような真似はしたくない。
とりあず、椅子に座ったまま寝ていると体を傷めかねないので、俺は彼の身体を抱えて空き部屋へと向かった。
そして部屋の中央に水で作ったベッドを置き、その上に仮称スナフキンの身体を横たえた。水製とはいっても、ある程度の柔らかさを保ったまま固めて固体化させたものなので、服や身体が濡れる心配は無い。
「これで良し」
後はこのまま寝かせておくかと考え、部屋を後にして自室に戻ろうとした時だった。
部屋の入口のドアを少しだけ開けて、室内を覗き込んでいる者達を見つけた。それは俺が使役している
「じー…………」
「アルティリア様が男を連れ込んでいます」
「服装はみすぼらしいですが中々のイケメンです」
「大変なものを見てしまいました」
ドアの隙間からジト目でこっちを覗き込みながら、水精霊達は好き勝手にそんな事を口にしてきた。
「何を勘違いしてるアホ共。寝落ちしてたからベッドに寝かせようとしただけで……」
俺は連中を落ち着かせようと、状況を説明しようとするが……
「寝ているところを……無理矢理……?」
「もう
「
と、こいつらは聞く耳を持たない。あと開廷直後に求刑すんな。RTAでもやってるのか。
「聞けや」
とりあえず全員に一発ずつ拳骨を落として、俺は部屋に帰って寝た。
久しぶりの航海や冒険で疲れていたのもあって、ベッドに横になってすぐに、俺は眠りへと落ちていった。
そして……次の瞬間、俺はエリュシオン島にいた。目の前にはボロボロに擦り切れた赤いマントをマフラーのように首に巻き付けた、半裸の小人族がいる。
「待たせたな。俺がキングだ」
待ってねえしお前がキングなのは知ってるよ。誰に向かって言ってんだ。
こいつ……また勝手に人の夢にアクセスしてきやがった。
「あの時に力を使い果たしたんじゃなかったのか?」
魔神将フラウロスとの戦いの時に、俺を助けるために神としての力を使い果たしたので、しばらくは助けてやれないと言っていた筈だ。それを指摘すると、
「お前やアレックスが色々と頑張ってくれたのでな。こうして夢に干渉するくらいならば問題なく出来るようになった」
こいつの神像を作ったり、エピソードを信者達に話してやった事で予想以上に信仰の力が集まり、ある程度回復できたようだ。
しかし元気になったのなら良かったが、もう少し大人しくしていればいいのに。
「話はお前の船……グレートエルフ号についてだ。実はお前が呼び出していない時、お前の船はこの島の、ギルド所有の
「なるほど、呼び出していない時はそっちにあったんだな。それについては面倒をかけてすまない」
「構わん。今でもお前は我がギルドのメンバーだ。ギルドの施設を使う資格はあるし、困っている時は助け合うのが仲間というものだ」
「キング……!」
「だがそれはそれとして、こちらが修理・メンテナンス費の見積もりだ」
「キング……!?」
キングが差し出してきた見積書に書かれていた金額は、払えなくはないが財布に結構なダメージが入る額であった。
俺のグレートエルフ号は大型船の中でも最高クラスの性能を誇っているが、その分部品の一つ一つが専用のオーダーメイド品で、価格やランニングコストも非常にお高くなっている。
その為、大破して部品がダメになったりしたら修理費が恐ろしい事になるのだが……今回、応急修理はしたものの中破レベルにまでダメージを受けてしまった為、結構な額の修理費が必要になってしまったようだ。
「ちなみにバルバロッサの奴が、ウルトラバルバロッサ砲Ver8.0を取り付けていいなら修理費をタダにすると言っているが」
「一括で払うから絶対にやめさせろ!」
俺の大事な船に、あんな下品な大口径船首砲を取り付けさせてなるものか。
俺は道具袋から提示された値段分の金貨を取り出して、キングに手渡した。
「うむ、確かにいただいた。ではアフターサービスという事で、幾つかお前に教えておこう。まずはそうだな……お前達が戦った、あの骸骨船長だが」
あれか……まさか亡霊船が幾つも合体して巨大戦艦になって、更にボスがそれと合体するとは予想外で、苦戦させられた。
俺達の手で倒された後は、亡霊戦艦と分離して海に沈んでいった筈だが。
「奴自身は既に冥界で冥王の裁きを受け、
「気になる事?」
「お前達に倒された後も、奴は完全に滅んではいなかったそうだ。とはいえ相当弱っていたので、しばらくは海底に潜んで再起の時を待つつもりでいたようだが……突然、海底で何者かに襲われてトドメを刺され、完全に死を迎えたらしい」
「……それの正体はわかるか?」
「わからん。海底に棲息する魔物あたりかもしれんが……とにかく、奴はかなり怯えた様子を見せており、冥王の裁きも全く抵抗する事なく受け入れたらしい。余程恐ろしい目に遭ったようだ」
……それは、つまり。
「奴にトドメを刺した何者かが、あの海域の海底に潜んでいる可能性があると」
あの往生際が悪かった骸骨船長が、それほど怯えて奈落への幽閉を受け入れるようなクソヤバい存在が居るとか、やめて欲しいんだが。
「リヴァイアサンとかダゴンみたいな巨大ワールドボス的な奴か……?」
「その可能性はある。警戒してくれ」
「了解だ……他に何かあるか?」
幾つか伝える事があると言っていたので、まだ他にも何かあるだろうと踏んで訊ねると、キングは次にこう言った。
「ならば次は、そうだな。お前が先ほど保護した、あの男について話そうか」
「ああ、あのスナフキンか」
「あの男は王都から来たようだな。グランディーノに来た理由は、お前に仕える司祭のクリストフを訪ねて来たようだ」
「……という事は神殿関係者か?」
「さて、それはどうだろうな。どうやら王都で何かあったみたいだな。丁度いいからお前もそろそろ、国王や大司教と直接会っておくといいんじゃないか」
なぜ王都で何かがあったと判明した直後にそれを勧めるのか。さてはこいつ、面倒事を俺に解決させようとしているな。
「まあ、詳しい話は起きたら本人達に聞くといい。そして最後にもう一つだけ、お前に伝えておくべき事があった。心して聞くがいい」
真剣な顔でキングが告げる。どうやら、それほどの一大事らしい。俺は覚悟を決めて、続きを促した。
「では話そう。これはつい先日の話なのだが、遂に……」
「遂に……?」
何だ? また魔神将でも現れたか? それとももっとヤバい何かか? と戦慄しながら待つと、キングの口から飛び出した言葉は予想外の物だった。
「ロストアルカディアⅦの発売が発表された」
「……なん……だと……!?」
ある意味とんでもない一大事であった。
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