第72話 グレートエルフ号、発進!

 作ったばかりの船で釣りに出かけた筈のアレックスと彼の友人達が、海から財宝を持ち帰ってきた。

 このビッグニュースには流石の俺もビックリである。


 LAOでも釣りをしてると魚以外の物がかかる事は時々あり、俺もゴミとか宝箱とか水棲モンスターなんかを釣り上げた事は何度もあるが、初めての遠洋釣りで財宝をゲットするとは、我が息子ながらアレックスの奴め、なかなかやりおる。

 子供達は海上警備隊の連中と一緒に俺に報告に来た後、金貨の山を抱えて港のほうに走っていった。どうやらその金で、早速船をカスタムするつもりらしい。


「でっかくしようぜ!」


「いやいや、ここはスピード優先だろ!」


「俺は大砲を強化してえ!」


 そんな風に大声で話しながら走っていく少年達を見て、男の子だなぁ……と、微笑ましい気持ちになった。

 思えば一ヶ月くらい前、丁度俺がフラウロスとの戦いを終えてこの町に戻ってきたばかりの頃に、アレックスから船を造りたいと相談された時から、少年達はずっとあの調子だ。

 あの時は廉価版の小型帆船とはいえ、まさかほとんど自分達の力で、一ヶ月弱で完成させるとは思わなかったが……若い情熱というのは侮れないものだ。

 ……なんか親目線というか、年寄りみたいな思考になってきていかんな。歳を重ねても、気持ちは常に若々しくありたいものだ。


 なので宝探しに行くぞぉ! 出航じゃあ!

 俺は港から少し離れた海岸に足を向け、そこで船を召喚した。


 この世界に来てしばらくの間は気ままな一人旅で、グランディーノに来てからも船を使う用事は無かったので放置していたが……ようやく使う機会が来たな。


 俺の船、グレートエルフ号は純白に染まった船体を持つ大型船だ。ガレオン船のように、多くのマストに帆がたくさん付いており、船首には俺をモデルにしたドスケベエルフ船首像が取り付けてある。

 スピードや火力などの性能面では、どれも一級廃人海洋民の基準ではそこそこレベルで突出した物は無いが、欠点が無く全体的にバランスの良い能力と、積載量の多さが長所といったところか。


「アルティリア様、この船はいったい!?」


 いきなりデカい船が現れたせいか、驚いた様子の海神騎士団のメンバーや町の人達が集まってきた。


「これは私の船です。これに乗って財宝を探しに行きます。もちろん貴方達にも付き合って貰いますよ」


 俺がそう宣言すると、騎士団の男達は目を輝かせた。

 更生したとはいえ、こいつら元海賊だからな。財宝探しとか好きそうだとは思っていたが、予想通りだったようだ。

 住民達は俺の船に向かって手を合わせて拝んでいる。


「ただ、もっと多くの船員が必要ですね。人を集めるとしましょう」


 船を動かす為の船員を募集すると共に、沈没船を探索し、財宝を持ち帰る為に戦闘や探索の心得のある者も集める事にした。

 まあ魔物とかが出てきても、俺や神殿騎士達が居ればそれだけで事足りるだろうが、乗れる人数にはだいぶ余裕があるしな。どうせ行くなら人を集めて大人数で効率的に進めようと思ったのだ。冒険者達にも良い経験になるだろうし。


 そうして船に乗るメンバーを募集したところ、定員を大きく超える応募があった為、くじ引きによる抽選をする事になった。

 そして、数日後の出航当日。

 港には、俺の船出を見送りや見物に多くの人が集まっていた。


「アルティリア様ー!」


「いってらっしゃいませ! 吉報をお待ちしております!」


「ママー! 見て、おっきいお船!」


「おお……なんという壮大な船じゃあ……長生きはするもんじゃのう。ありがたやありがたや……」


 そんな人でごった返す港の中で、なにやら騒がしい集団が居た。


「離せぇ! わしはアルティリア様の船に乗るんじゃあ! せっかく十数倍の倍率をくぐり抜けて当選したのだぞ!?」


「いけません副長! 今週中に提出しなければならない書類がまだ残っています!」


「お偉いさんとの会合の予定もあるんですよ!」


「仕事がまだ山積みです! デスクに戻ってください!」


「「「副長! 副長! 副長!」」」


 赤い髪とヒゲが特徴的な、中年の大男。海上警備隊の副長、グレイグ=バーンスタインだ。船に乗り込もうとしたところを部下達に囲まれ、静止されている。


「ええい、ならもういい! わし警備隊やめて冒険者になる!」


「ちょっ、やめてくださいよ副長!」


「だからやめるって言ってんだろ!!」


「そういう意味じゃありません!」


「だいたい副長が矢鱈と前線に出たがるから、その分書類仕事が溜まってるんでしょうが!」


「うるさいバーカ! 現場に出れずに休暇も好きに取れない管理職なんて大っ嫌いだ! 畜生めえええええ!」


「副長ご乱心! 誰か団長呼んでこい!」


 収拾がつかなくなりそうなので、仕方なく俺が説得する事にした。


「グレイグ、乗りたければ今度暇な時にでも乗せてあげますから、少し落ち着きなさいな」


 そう言うと、グレイグはそれまでの狂乱っぷりが嘘だったかのように、スンッ……とその動きを止め、キリッとした顔で俺に目線を合わせた。


「それは真ですか、アルティリア様」


「うわぁっ! 急に落ち着かないでください副長!」


「我が名にかけて、偽りは言いません。予定が合う日を事前に伝えるように。ただし……」


「ただし……?」


「舵を握るのは私です。そこは譲れません」


 俺が伝えた言葉に、グレイグはショックを受けた様子だった。やっぱり自分で動かしてみたかったんだろうな、このオッサン。


「な、なんと……!? そ、そこを何とか、ほんの少しだけでも……」


「だめです。この船は貴方達が使っている物よりも大型で高性能な分、動かすにはそれ相応の操船技術を必要になります。貴方にはまだ早い」


 俺の見たところ、グレイグは現地人の中では操船スキルが一番高いようだが、それでもこのグレートエルフ号を運転するには、まだ少々物足りない。


「なので、今は自分の船を使って技術の向上に努めなさい。そうすればいずれ、もっと良い船を提供したり、私の船を任せる事もあるかもしれません」


 そう伝えてやる気を引き出そうとしたが、その効果は想像以上のものだった。


「フフフ……この港町で生まれ育ち、海上警備隊に入って数十年。自分以上の船乗りなど居ないと自惚れていましたが、それでもアルティリア様からすれば物足りないレベルであったと。このグレイグ、目が覚める思いでございます。より一層、修練に励まなければ」


 明らかに目つきが変わった。赤い瞳の奥に、燃え盛る炎が見える。どうやらやる気に火がついた様子だ。


「この私とて、いまだ道半ば。修練の道に終わりはありません。精進なさい」


 俺の生活スキル全般もかなり高い水準にあるとはいえ、水泳以外はそれぞれの専門分野のトップに居る連中と比べると一段落ちるしな。操船にしたって全プレイヤー中トップのキングと比べると、かなり見劣りする。

 なので、この俺もまだまだ修行不足であり、逆にいえば伸びしろがあるという事だ。努力を怠ってはならない。


「はっ、不肖グレイグ、より一層の努力を重ね、アルティリア様の船を任せられるほどの船乗りになって見せまする!」


 跪き、そう宣言したグレイグは立ち上がって、俺に背を向けた。


「そうと決まればさっそく練習じゃあ! 行くぞぉ!」


「待ってください副長! デスクワークはどうしたんですか!?」


「副長ぉぉぉぉ!」


 最後まで騒がしい奴らだった。

 彼らを見送った後しばらくして、出航の準備が整った。

 メンバーは俺と海神騎士団のメンバー全員、ニーナとアレックスに財宝の発見者である少年達、冒険者に海上警備隊、グランディーノの町に住む船乗り達で、合計100人ほどの大所帯になる。


「出航だ! 錨を上げよ!」


 こうして俺達は、沈没船に眠る財宝を探しに大海原に出たのだった。

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