第6話 コツコツと…
―塵も積もれば山となる。
―雨だれ石をうがつ。
(コツコツと積み重ねれば上手くいくはずだ…)
私の指が華麗にギターを奏でる。
今日は喉の調子が良く、歌声がどこまでも出せる気がした。腹に力を入れる。
(今日めっちゃ気分いい…)
ギターを始めたばかりの頃は指が思うように動かず、曲らしくはならなかった。歌も音程を外しまくっていた。録音していた練習結果を再生する度にショックを受けたものだった。
はっきり言って騒音の類だった。
しかし、練習を重ねていくうちに形になってきた。
狭いアパートの一室はコンサートホールのステージのように感じた。
毎日コツコツと練習を続けていくことの大切さを身に深く感じた。
(さあて…今日はここまでにしよう…)
私はギターを片付け、寝床に入った。目一杯に練習した後はぐっすりと眠れる。
(いい夢が見られそう…)
満足に目をゆっくりと閉じた。眠気に包まれる。
(コツコツと…なんて素晴らしいことだ…)
―隣の部屋。
(隣の奴め…またギターで騒ぎやがって…)
俺の住むアパートで隣の部屋にいる奴は毎日のようにギターを弾いて大声で歌う。
迷惑な騒音だ。
こっちは眠れずに苦しんでいるっていうのに…朝になれば、あいつは気持ちよさそうな顔をして出かけていく。
(許せない…)
ギターを弾いて歌うあいつの騒音は日に日に楽しそうになっていく。こちらは不眠の日々が続くというのに…。
(許せない…許せない…)
アパートで暮らしていくうちに恨みがコツコツと積み重なっていく。
今日も隣の部屋から騒音が響いてくる。
俺の中で何かが爆発した。抑えきれそうにないようだ…。
俺の手が包丁を握る。無意識に足が隣の部屋へと進んでいく…。
(コツコツと積み重ねてきた恨みが…今…)
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